STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

不採用活動を辞めれば、人事1人でも新卒採用は成功する。 ~オイシックス・ラ・大地/宇野氏(前編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十一回目となる今回は、オイシックス・ラ・大地株式会社でHR採用マネージャーを務める宇野貴嗣さんにお話を伺いました。
本記事はその前編となります。(→後編はこちら

1979年生まれ。福岡県出身。大学を卒業後、エン・ジャパン株式会社で人材業界のイロハを学び、支社長も経験。その後デジタルマーケティングを行う株式会社アイ・エム・ジェイに採用担当として入社。新卒・中途採用に携わる中で、HR PRO主催の第3回日本HRチャレンジ大賞 奨励賞、グッドデザイン賞を受賞。2019年6月よりオイシックス・ラ・大地にジョインし、HR採用マネージャーを務める。

ゲスト:宇野貴嗣
オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャー

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
本日はよろしくお願いします。

宇野:
お願いします。

増渕:
さっそくお伺いしたいのですが、宇野さん、新卒の採用活動においてグッドデザイン賞を獲得されたと聞きました。その辺りから伺ってもいいでしょうか?

宇野:
はい。アイ・エム・ジェイ在籍時に受賞させていただきました。この話、前置きがありまして。遡ってお話ししてもいいでしょうか?

増渕:
もちろんです。

宇野:
ありがとうございます。アイ・エム・ジェイに人事として入社した当時は、リーマンショックの名残もあり、新卒採用が3~4年ストップしていました。

増渕:
新卒採用を再開するために、宇野様が入社されたんですか?

宇野:
タイミング的にはそうなりますね。ただ私自身、人材業界での営業経験はあったものの人事職は初めてで。まずは基本に立ち返り、アイ・エム・ジェイの立ち位置を理解しようと、学生インタビューからはじめました

不採用活動に、時間を割かない。

宇野:
学生の話を聞いて分かったのは、大手企業と比べて知名度の差がかなりあるなということ。普通のやり方では、大手と競合しても勝ち目がないなと悟りました。

増渕:
ここでいう普通のやり方は、リクナビなどの就活サイトで母集団を集めて選考をするという方法ですか?

宇野:
そうです。ナビサイトは広く学生に認知されるものの、否応なく大手企業と比較されてしまいます。そもそも10数名を採用するために1000名、2000名ものエントリーを集める必要はないと以前から思っていたので、他の方法を考えました。

増渕:
どんな採用活動を行ったんですか?

宇野:
すごく単純です。会いたい人材に会える場所を探して、訪問して口説くという。まず改めて人材要件の整理から始めました。デジタルマーケティングが強いアイ・エム・ジェイに必要なのは、企画タイプで発想力のある学生。そんな学生はどこにいるのかと考えたところ、社内で働いていた学生アルバイトのAさんが目に留まりました。

H大学の広告研究会にいたAさんの話を聞き、この繋がりを起点にアイ・エム・ジェイの欲しい人材に高確率で出会えるコミュニティを作る活動を始めました。

増渕:
なるほど。具体的にはどんな行動を起こしたんですか?

宇野:
Aさん経由で広告研究会の長と会わせてもらいました。会話を繰り返し、研究会のイベントにも呼んでもらえるようになり、その場でアイ・エム・ジェイをPR。目の前の学生に直接語り掛けました。

理想は、エントリー人数=採用人数。

増渕:
エントリーが減るリスクは考えなかったんですか?

宇野:
まったくでしたね。むしろより選考希望学生を厳選するために、通り一辺倒の志望動機や長所・短所などの書かれたエントリーシートベースの面接をやめ、内容自由・持ち込み資料自由のプレゼン選考を導入しました。

増渕:
おもしろそうですね。自分をプレゼンするんですか?

宇野:
それも自由です。1時間の中であれば、何をプレゼンしてもOK。家族について話す方や趣味を語る方など、個性が出て、こちらも楽しみながら選考させてもらいました。

参加学生の反応も非常に良く、ここまで伝えてダメなら納得できますと言っていただけました。選考参加のハードルが上がった分、エントリーは減りましたが、大満足の結果でした。

増渕:
さすがに社内で反対意見が出ませんでしたか?

宇野:
いえ、特にはありません。このハードルを楽しんで突破するくらい、前のめりな方じゃないと入社いただいても厳しいという意図があったので。社内も納得の上で進めることができました。

増渕:
結果はどうでしたか?

宇野:
応募者18名中10名採用です。採用目標人数の5名でしたが、優秀な人材が多かったので、2倍の10名と初年度ながら狙い以上の採用ができました。

困ったら、学生の声を聴く。

宇野:
翌年も28名応募の10名採用と順調で、その翌年がご質問いただいたグッドデザイン賞をいただけた年です。

増渕:
待ってました!

宇野:
この年は、経営から採用人数を増やすよう言われていて、新しい手立てを模索していました。困ったときは基本に立ち戻るということで、入社1年目に採用したルーキーや学生のインターン生に話を聞きました。

増渕:
どんな話を聞けたんですか?

宇野:
就活を経験する中で、良かったこと、嫌だったことを聞きました。ある内定者が「自分の個性を出そうとするけど、やればやるほどトガっていると思われて評価されない。結局どこの企業もうまく話ができる人が評価される。」と話してくれました。うちはトガった学生とばかり出会っていたので、この観点は発見でした。

2016採用当時は、就活失敗による自殺が社会問題化しており、それらも踏まえた上で社会に出る入り口を楽しんでほしいという想いを込めて、「落ちたら、採用します。」という採用コンセプトを作りました。(詳しくはこちら)

増渕:
2016というと、採用スケジュールが大きく後ろ倒しに変わり、インターン参加学生が一気に増えた時期ですね。その影響もありましたか?

宇野:
相変わらず就活サイトは使っていなかったので、特に影響はありませんでした。学生団体のつながりから広告研究会の大型イベントやビジネスプランコンテストなどにも参加させていただき、ターゲットにのみメッセージを届ける活動を徹底しました。

増渕:
グッドデザイン賞というのは、どこから出た話だったんですか?

宇野:
これは今後の採用ブランディングを見据えてのエントリーでした。日本全体もリーマンショックから立ち直り、デジタルマーケティングの重要性がフォーカスされつつある時期だったので、来年以降採用人数が増えていくと考えていました。

そのためイベントなどで自社のPRをする際に、より多くの方の注目を集める施策として、知名度の高いグッドデザイン賞にエントリーしました。当時も今も、採用活動そのものをエントリーする企業はなく、戦略通り母集団を増やすことにつながりました。

増渕:
成果はいかがでしたか?

宇野:
何を持って成果とするのか難しいところですが、採用人数目標に関してはクリアできました。また、狙い通りグッドデザイン賞の話は翌年以降の採用活動時にも、一定数の学生には情報が認知されていたため、一定の成果はあったのではないかと思います。

増渕:
欲しいターゲットだけにアプローチする採用活動はすばらしい。企業視点で効率化の意味も大きいですが、採用された方の納得度も高いと思います。入社した方々の反応はどうでしたか?

宇野:
そうですね。入社した子たちから、「一番楽しい就職活動だった。」「途中就活とは思ってなかった(笑)」「自分をさらけ出してきちんと評価してくれる会社があることに驚いた」と言ってもらえたのは嬉しかったです。学生もきちんと自分を表現でき楽しみながら社会に飛び込む入り口づくりを、少しは体現できたのかもしれません。

宇野さんのインタビュー記事 後編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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