STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

組織崩壊のグッドパッチ バリューの再構築でカルチャーを立て直す。 〜グッドパッチ/柳沢氏(前編)〜 

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十六回目となる今回は、グッドパッチの柳沢和徹さんにお話を伺いました。本記事はその前編となります。(後編はこちら

横浜国立大学院環境情報学府修了後、2007年株式会社マクロミルに新卒入社。サーベイデータの集計部門からキャリアをスタートし、M&Aに伴う集計部門統合プロジェクト等を手掛ける。人事、新規事業開発、事業企画など合計で11部門を経験。その後、2017年株式会社グッドパッチに入社。経営企画室長に就任。2019年より事業開発室長を兼任。

ゲスト:柳沢和徹
株式会社グッドパッチ 執行役員 経営企画室室長

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

組織崩壊のどん底にあったグッドパッチへ転職。

増渕: 
本日はよろしくお願いします。以前、柳沢さんが「グッドパッチに入社された時点で組織崩壊していた」という記事を拝見しました。まずは、グッドパッチへの入社の経緯から詳しくお聞かせいただけますか。

柳沢:
前職はマクロミルで、新卒入社で丸10年働きました。転職しようというときに組織崩壊状態のグッドパッチと出会い、いきなり代表の土屋と2人きりで面接をしました。グッドパッチよりも少し後のステージにいたマクロミルからアドバイスを求めたかったのでしょうか、私が見極められるというより、土屋の相談を受けるような面接でした(笑)。実は転職するのは初めてのことだったのですが、自分のこれまでの経験がこの組織の役に立つかもしれないと思い、まぁどうにかなるだろうという気持ちで入社しました。

増渕:
組織崩壊とは、具体的にはどのような状態だったのでしょうか。

柳沢:
心理的安全性が低い状態と言いますか、みんなが社内で発言することを恐れていました。離職率も30〜40%と非常に高かったです。採用活動は活発でたくさんの人材が入ってくるけれど、平均勤続期間は1年半。穴が空いたバケツに一生懸命水を入れているようでした。

モチベーションサーベイ偏差値は46.7。世の中の平均的な水準が50であると考えると、普通よりも悪い状態であったと言えます。特にマネージャーのスコアが27と低く、経営と現場との間で板挟みになったマネージャーが疲弊している状況がスコアにも現れていました。ただ、会社の売り上げは右肩上がりで伸びており、「組織の回復」にフォーカスできたのは不幸中の幸いでしたね。

まずは、経営陣から変わる。

増渕:
暗中模索のなか、どのように動いていかれたのですか?

柳沢:
まずはキャッチアップですよね。どうしてこんなことになっていて、何が問題なのか、自分の目で見ないと何もできないなと。そこで、とにかくいろいろな人と、マネージャーだけでなく、現場のメンバーとも会話をしました。おっかなびっくりのところもありましたが、実はみんな会社をどうにかしたいと思っていたようで、真摯に話を聞いてくれました。会社近くの定食屋で、とんかつを食べながら会社をどうしたいのかを真剣に議論したこともありました(笑)。

増渕:
情報収集をしたことで、どんなことが見えてきましたか?

柳沢:
マネジメントに課題があるということが見えてきました。「役員やマネージャーがちゃんとメンバーの話を聞く」とか「全社の重要なテーマの進捗をみんなが共有できる状態にする」とか、当たり前のことを当たり前にできていなかったのです。実際に、モチベーションサーベイでも「経営への信頼」「階層間の意思疎通」のスコアが低く出ていました。

増渕:
実際にどんな施策を実行しましたか?

柳沢:
「これをやりました」と一言で言えるほどシンプルな状況ではなく、あれもダメ、これもダメという状態。ただ、マネジメントに課題があるのは明らかだったので、「僕が人事をやりましょうか?」と土屋に提案したのがスタートです。土屋の右腕として事業を推進する経営企画室室長として入社したのですが、役割に固執せずに今の組織に必要な機能を担えばよいと思い。

そして、「経営の信頼獲得」を目指しました。全社集会の際に「まず、経営陣である僕たちができていない部分が多いので、これから有言実行でしっかりやっていきます」という反省のメッセージも伝えました。やるべきことを宣言し、実行し、きちんと進捗を報告することにしたのです。「経営が自らの立ち振る舞いを反省しなければならない」という号令をかけたのは土屋自身です。「社長がそう言うのなら」と、経営陣もその言葉の下に団結することになりました。組織を復活させられたのは自分のできていない部分をできていないとオープンにできる土屋のパーソナリティによるところも大きいと思います。

増渕:
他にも実行した施策はありますか?

柳沢:
小さいことですが、経営陣がイベントごとにしっかり出るようにしました。グッドパッチのオフィスにはみんなが集まって話ができるようにキッチンがあり、全社集会のようなカッチリしたものから「月に1回ピザを食べよう」というカジュアルなものまでいろんなイベントがあるので。自分がイベントに出ないマネージャーが「みんな出席しようよ」と言っても説得力がないですよね。言行不一致の状態はまず改善すべきと考えたのです。

それから、マネジメントチームも強化しました。当時は誰もが踏んでしまう轍をキレイに踏んでいて、「スキルが高い」「現場経験が長い」「メンバーに慕われている」など、必ずしもマネジメント能力とは直結しない要因でマネージャーを選任していました。マネージャーは「メンバーの人生を左右する采配」を振るう立場です。それまでは利害関係のない横のつながりであるために良好な関係を築けていても、評価や処遇の絡む縦のつながりに変化した瞬間、関係が保てなくなり、マネジメントができなくなる現象が起きていました。そこで採用や抜擢を通じ、マネジメントに適した人材がマネージャー職を担う状態を少しずつ実現していきました。

増渕:
評価制度も変更しましたか?

柳沢:
徒にルールを変えるよりも、評価に対して納得感を持てることを重視しました。例えばメンバーの自己評価が5段階中4で、マネージャーの評価が2といったように、当時は成果に対する認識のズレが生じていました。そこで、コミュニケーション方法をきちんとレクチャーし、期中に自己評価を提出してもらった上で、マネージャーとメンバーとで振り返りを行ってもらうようにしました。もし相互の評価にギャップが生じても、まだ時間が残されている期中の段階でそれを認識できれば、すり合わせと軌道修正ができます。結果、期末にいきなり評価が下される「サプライズ評価」が少なくなり、評価に対するメンバーの納得感が高まったと思っています。

バリューの再定義で、カルチャーを立て直した。

柳沢:
組織崩壊から回復するターニングポイントになったのは「バリューの再定義」です。グッドパッチの「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンと、「デザインの力を証明する」というミッションは組織崩壊の最中にあってもメンバーから強い共感を得ていました。一方で、当時存在した「8way」というバリューは、ほとんど浸透していませんでした。社員の納得感が得られてない中でいきなり評価制度に組み込んでしまったために強い反発を受けることになってしまったというのもその理由のひとつです。「壁に貼ったバリューのポスターが、翌朝、剥がされ机の上に置いてある」というできごとまであったくらいです。

バリューはたとえるなら「舟の漕ぎ方」です。ビジョン、ミッションによって目指したいところは決まっているけれど、バリューがないためにどうやってそれを目指していくかが曖昧になっていました。グッドパッチという舟に乗ったメンバーに対して漕ぎ方を明示していないために、「自分では漕がないけれど、目的地や船の速度に不満を言う」文化ができてしまっていた。それゆえに、バリューを再定義することで社内の人材が自ら舟を漕ぐ文化を作ろうとしたのです。

増渕:
どのように進められたのですか?

柳沢:
土屋が「トップダウンではなく、ボトムアップで作ろう」と決めて、私がプロセスを組み立てました。自らの意見を述べ、バリュー作りに主体者として関わる体験を通じて、全てのメンバーに「このバリューは自分のものだ」という気持ちを持ってもらいたかったのです。アンケートやワークショップを通して、アルバイトを含む全ての仲間から意見を求めました。

増渕:
着手から完成までどのぐらいの期間でしたか?

柳沢:
半年弱くらいだったと思います。しかし、関心を持ち続けてもらうために途中経過はこまめに共有するようにしていて、5つあるバリューの1つができた時点で共有し意見を求めたり、悩むことがあれば対話をしたりするなど、プロセスを透明化することに努めました。経営陣が作ったプロトタイプを私と土屋が持って、各ユニットのチーム会に意見を聞いて回るキャラバンもたくさんやりました。現場からの意見を取り入れ、変更することもよくありました。入社して数ヶ月の新卒社員も含め、みんな積極的に自分の意見を伝えてくれたのが印象に残っています。とにかく泥臭く対話を繰り返し、ようやく5つのバリューができました

増渕:
新しいバリューを導入してから、組織はどうなりましたか?

柳沢:
ものすごく雰囲気が良くなりました。たとえば誰かがチームプレーを大切にした行動をしてくれたときには、「それってPlay as a teamだね」とか、企画の意図や最終ゴールが不明瞭なときには「whyから始めようよ」といった具合に使われ、今まではそれぞれが違う言葉で語っていたことが組織としての共通言語で語られるようになっていったのです。

面接の場でも「僕らはこれを大事にしています。これに共感できないとミスマッチになります」と応募者に明確に伝えられるようになりました。すると、ビジョン、ミッション、バリューに共感していない人は入ってこない。私たちが示した舟の漕ぎ方に共感した人だけが入ってくるのです。結果として、組織文化に対して主体的な意欲を持った人材の割合が増えることになり、カルチャーを醸成させる効果があったと実感しています。

増渕:
採用におけるマッチングのレベルが上がったのですね。採用方法も変更しましたか?

柳沢:
方法自体は変えていません。もともと全方位的に採用には力を注いでいましたが、やはり会社の状態が良いと、組織の魅力を伝えるトークも強くなりますよね。さらに風土が良くなって、新しいメンバーが成果を出せるようになると、採用を強化するメリットを既存社員も実感できるようになります。

離職率が高かったときは、「あの会社は組織状態が良くないらしい」という噂が出回っていたようですが、そういった噂もいつしかなくなり、グッドパッチのブランドイメージは大きく改善することになりました。

<柳沢さんのインタビュー記事 後編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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