STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

ビジョン、カルチャーへの共感が、ぶれない組織を作る ~LIFULL/羽田氏(後編)〜

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十七回目となる今回は、LIFULLの羽田幸広さんにお話を伺いました。本記事はその後編となります。(→前編はこちら

上智大学卒業後、人材関連企業を経て2005年ネクスト(現LIFULL)に入社。人事からキャリアをスタートし、その後、人事責任者として、経営理念浸透、カルチャー醸成、採用、組織開発、人材育成、人事施策づくりに尽力。2008年より「日本一働きたい会社プロジェクト」を手掛ける。2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。

ゲスト:羽田幸広
株式会社LIFULL 執行役員兼CPO

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

面接で「何をやりたいか?」しつこく聞く。

増渕:
LIFULLにとって、採用はどのくらい重要なものでしょうか。

羽田:
非常に重要です。一人のリーダーによって組織が活性化したり、新しい動きが生まれたりする様子を目の当たりにしてきました。「採用でしか変えられないことがある」と思うくらい人の力の重大さを実感しています。

一貫性のある組織をつくるために意識していることは、3つあります。まず1つは、ビジョン、カルチャーを定めること。2つめは、それに沿った経営活動をするということ。3つめは、それに沿った採用活動をするということです。

増渕:
採用活動において、重視していることはありますか?

羽田:
人材を見極める際には、ビジョンフィット、カルチャーフィット、ポテンシャル、スキルフィットの順番で大事だと伝えています。もちろん即戦力の人材が来てくれたら嬉しいですが、長期的に考えたとき、多様なポジションに見合う多様な人材を採用すべきだと、2006年くらいから採用の方針を変えました。

僕が入社した頃、新卒採用の説明会ではあまり経営理念について説明していなかったんですね。経営理念を実現するためには住まい以外の事業をやっていく必要があるんだから、「教育事業をやりたい人」がいてもいいじゃないかと、採用コンテンツの表現も変えました。新卒を配属した部門のマネジャーから「なんで教育をやりたい人を採用しているの?」と文句を言われましたけど(笑)。

それから、学生には「何をやりたいか?」を聞くようにしました。今もうちのビジョンと合うベクトルを持っていない人材は採用しないようにしています。「やりたいことのある学生なんてめったにいない」と批判されることもありますが、当社で採用する新卒は30人程度なので「30万人のうち30人はいるでしょ」と思っています。当時採用したメンバーは今、中核メンバーとして活躍しています。たとえば取締役の伊東は2006年新卒入社ですし、CTOの長沢翼は、2008年新卒入社です。

増渕:
新卒採用はポテンシャル採用だといわれますが、「ポテンシャルが高い人」とはどんな人だと思いますか?

羽田:
オタクな人は長期に渡り成長すると思います。もちろん、コミュニケーション力や、効率的に考える力も必要です。でも大事なのは「その仕事が好き」かどうか。特定の物事に長い時間をかけて夢中になれる人は、成長できる人だと考えています。

採用の鍵は、LIFULLらしさを打ち出すこと。

増渕:
新卒採用の価値、中途採用の価値を、それぞれどのように考えていますか?

羽田:
採用の割合は、新卒が3割、中途が7割くらいです。新卒採用の価値は、転職市場にはなかなか出てこない人材にアプローチできることです。

中途採用においては、10年前くらいと比べると当社のビジョンに共感してくれて、なおかつ優秀な人材が入社してくれるようになりました。近年では事業の目的や社会的意義を重視する方が増えてきた感覚があり、僕らの採用母集団が市場に増えているのかもしれません。

増渕:
御社が欲しい人材は、他社が欲しい人材でもあります。内定辞退に悩む企業が増えている中で、選ばれるために工夫していることはありますか?

羽田:
新卒採用に関していえば「リクルーターの強化」でしょうか。僕がネクスト(現LIFULL)に入社した2006年ごろ、リクルートさんやリンクアンドモチベーションさんが、事業部門の社員をリクルーターとして活用し、学生を惹きつけていました。当時の当社は人材の質量ともにその2社には及ばないと考え、事業部門の社員ではなく、人事の採用担当者を一からリクルーターとして育てることにしました。

リクルーターは学生のアドバイザーのような存在で、一人ひとりに対して、「あなたがやりたいことは何?」と聞いて、会社を選ぶ軸の整理なんかも一緒にやります。「それなら企画職の○○さんから話を聞いてみたら?」と面談を手配したり、当社と合わない場合は「○○という会社は合うんじゃない?」と他社を勧めたりもします。このように、その学生の会社を選ぶ軸をつくる支援をしたうえで、当社の魅力を伝えていくというという形をとっています。

増渕:
中途採用においては、選ばれるための工夫をしていますか?

羽田:
例えばパートナーである人材紹介会社に対してはLIFULLのことを理解していただくために、担当者の方と緊密に連携をとり、、LIFULLの考え方や企業文化をしっかりと伝えています。これは新卒と中途、共通して言えることですが、募集の段階から、「LIFULLらしさを極端に全面に押し出すこと」が重要だと考えています。そういう偏った情報発信が、当社が合いそうだと感じた方に選考に進んでいただけている要因になっていると思います。

もちろん歩留まりを見てスカウト文面を調整したり、面接官のみなさんに「こういうコミュニケーションをとってほしい」とお願いしたり、細かいことの積み重ねもやっています。

増渕:
そのほか、採用で意識していることを教えてください。

羽田:
これは意識的に取り組んだというよりは結果そうなったという話ですが、当社の面接官は、採用候補者の方が当社のビジョンやカルチャーにフィットしているかどうかの判断やビジョンやカルチャーを用いての動機形成が非常に上手いです。これは面接官を担当するマネジャー層が、メンバーの育成や評価、動機付けなどを、普段からビジョン・カルチャーを軸に行っているからできることだと思います。たとえば普段メンバーに対して行っている「LIFULLで働くことが、どのように自分のLIFEをFULLにすることに繋がるのか」を考えてもらうプロセスを、面接時に採用候補者の方に対して行えるのは強みだと思います。

増渕:
これはLIFULL全体にビジョン・カルチャーが脈々と伝わっているからこそ、できることですね。一長一短ではできない採用力だなと感じました。

人事施策の起点はすべて、経営理念から。

増渕:
経営戦略と人事戦略の連動を、人事のメンバーにも意識してもらうためにどんな工夫をしていますか?

羽田:
思考の起点を、「経営理念を実現するためには」という問いにしてもらっています。経営理念と日々の仕事をつなげられるように、LIFULLには全部門にビジョンがありますが、提案資料の最初に、経営理念と部門のビジョンを書いてもらうことで、「経営理念を実現するために、そもそもこれをやる必要があるのか?」を考えることができます。常に理念や部門ビジョンから逆算してもらうことで、理念や経営戦略からぶれない施策の実行を可能にしています。

増渕:
ミッション、ビジョンがあっても、人は毎日頑張れるわけではありません。課題に直面した時に、打破するための取り組みがあれば、教えてください。

羽田:
組織長にマネジメントにおいてお願いしていることのひとつに、「メンバーの気持ちを知ること」があります。

「気持ち」とは、「仕事」「私事」「志事」という「3つのしごと」に関わる気持ちのことです。たとえば、「仕事」では、「今の気持ちは、天気でたとえるとどうなの?」「曇りのち晴れです」といった話をして、仕事の進捗状況ではなくメンバーの気持ちを把握します。仕事は順調に進捗していても、気持ちが下がってしまうことはあると思います。「3つのしごと」に関する気持ちを知った上で、仕事のアサインをしたり、キャリアや悩みの相談をしたりすることで、いろいろ大変なことがあっても前向きな状態でいてもらえるように支援しています。

増渕:
内発的動機を刺激する施策と合わさることで、さらにウェルビーイングな状態になっているのかもしれませんね。最後に、経営や事業に貢献する人事を増やすためにはどうしたらいいと思いますか?

羽田:
繰り返しになりますが、人事担当の方が「経営理念を実現するための仕事をできているかどうか」を常に考えることが大切だと思います。いろんなアイデアが浮かんでも、経営理念から逆算すれば、やるべきこと、やらなくていいことがわかります。「施策のための施策」にならないように注意が必要ですね。

また、経営理念を実現するためには社員の力が必要です。そして社員に力を借りるためには、「社員の幸せに貢献できているかどうか」もすごく重要だと思います。経営理念の実現と、社員のウェルビーイング。この二つを両立させることを重視しています。

増渕:
ありがとうございました。

<羽田さんのインタビュー記事 前編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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