STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

「全員活躍」を実現する組織を作るために、人事としてできることは何か。 ~カルビー/武田氏(後編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第八回目となる今回は、カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長の武田雅子さんにお話を伺いました。
本記事はその後編となります。(→前編はこちら

1989年に株式会社クレディセゾンへ入社。全国のセゾンカウンターでショップマスター(店舗責任者)として活躍後、営業推進部トレーニング課長や戦略人事部長を経験。2014年には人事担当取締役に就任。2016年には営業推進事業部のトップとなり、組織改革を推進。2018年カルビー株式会社へ入社し、2019年より現職。日本の人事部HRアワード個人の部最優秀賞受賞(2018年)。

ゲスト:武田雅子
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
前半から引き続きよろしくお願いします。 後半はカルビーに転職されてからの、人事としての取り組みについてお聞きしたいと思います。

武田
はい、よろしくお願いします。

増渕:
日本を代表する食品メーカーであるカルビーですが、人事のプロとして見た時にどういった課題があると思いましたか。

武田
カルビーには優秀な人財が多いですが、まだまだ光りきっていない人財や、ユニークだけれど埋もれてしまっている人財がいるように思えました。またそういった人財を発掘して、スポットライトを当てるような制度や取り組みが不足しているように感じました。


例えば、これは食品業界全体に言えることですが、部門間の異動が極端に少なかったんです。チャレンジ制度という手挙げ方式で他部門への異動ができる制度もあったのですが、利用者は少ない状態でした。

増渕:
自分の適性を活かしきれないまま、埋もれてしまっている人がいるかもしれないと考えられたんですね。

武田
そうです。そのためまずはチャレンジ制度を利用しやすいようにしたんです。具体的には、経営陣へのプレゼンを無くしました。そうしたことで以前に比べて10倍以上の制度利用者が出てきたんです。

実際に品質管理の部門にいた社員が新規事業の部門に異動して、周囲が驚くほどの大活躍をしてくれている例もあります。もっともっと異動へのハードルを下げて、チャンスが全員に回ってくるようにしたいですね。

全員活躍できる組織を作る。

増渕:
様々な取り組みを実施されている中で、軸となる考えや想いはありますか。

武田
私はカルビーに来て、全員活躍というスローガンを掲げました。この言葉はいつも立ち戻る場所として私自身も大切にしていますし、チームでも共有しています。社員全員がバッターボックスに立って、スポットライトを浴びる。そんな組織にするために、どんな評価制度や人事制度が必要だろうかと常に考えています。

この全員活躍という考えは、実は前職のクレディセゾン時代に店舗責任者としてマネジメントを行っていた時から大切にしています。当たり前ですけど、チーム全員が力を発揮している状態が、一番成果が大きくなりますから。当時から、全員が輝ける持ち場をどうデザインし、キャスティングしていくか。そればかり考えていましたね。

増渕:
武田さんのHRパーソンとしての軸となる考えでもあるわけですね。

武田
そうですね。人事をやったり役職を持ったりすると、つい人を評価するようになってしまいます。あの人はこんなタイプだ、なんて決めつけがちになる。ですが私は、環境があって、チャンスがあれば輝かない人はいないと思っています。実際に環境を変えたことで大きく変わった人たちを大勢見てきていますから、全員活躍は実現できると信じているんです。

コロナ禍で人事として取り組んだこと。

増渕:
大変すばらしいお考えですね。他に採用や育成に関して現在取り組んでいることがあれば教えてください。

武田
カルビーでは2020年から、新型コロナウイルス感染症に対して、ニューノーマルの働き方『Calbee New Workstyle』をスタートさせました。これはオフィス勤務者を原則モバイルワークにするなど、柔軟で効率的な働き方の推進を目的としています。そんな中で人事として始めたのが、『Calbee Learning Café』『カルビっとワーカー』といった取り組みです。

増渕:
詳しく教えていただけますか。

武田
はい。まず『Calbee Learning Café』ですが、これは月に2回開催している、全社員を対象にしたオンラインでの学びの場です。外部から講師を招いたり、カルビー内部の活躍人財に登壇してもらったりしながら、様々なお話をしてもらっています。

『Calbee New Workstyle』がスタートし、多くの社員が在宅勤務になったことによって外部の方との関わりが少なくなり、人から受ける刺激や学びが減ってしまうのではないかと考えたんです。そこで人事という立場から外部の方との接点を増やすにはどうしたらいいかと考えて始めたのが『Calbee Learning Café』でした。

そうした目的なので、内部の人財であっても普段なかなか多くの社員が接点を持てないような方や新たな刺激が得られるような方を選んで、話をしてもらっています。例えばこれまで、タイの現地法人の代表や新規事業部門の方などに登壇してもらいました。

増渕:
リモートワークで生じやすい課題を解決し、イノベーションを起こすための取り組みとして非常に魅力的ですね。

武田
ありがとうございます。社員にもかなり好評で、参加は自由ですが毎回多くの社員が参加をしてくれています。

次に『カルビっとワーカー』についてですが、これは簡単に言うと副業人財を採用するという取り組みです。カルビーの公式オンラインショップ「カルビーマルシェ」というECサイトの企画・運営を行う副業人財の募集をニュースリリースとして出したところ、メディアの方にも取り上げていただきました。

結果100名近くのものすごく優秀な方々からの募集が集まり、2名が副業人財として事業に携わっていただけることになったんです。多様な価値観や経験、高い専門性を持ったこうした人財によって、組織が活性化しイノベーションの創出に繋がることを期待しています。

埋もれている人財にもっとスポットライトを当てたい。

増渕:
今後の事業戦略やビジョンを考えた時に、どんな人財を採用していくべきだと考えていますか。

武田:
これまでのカルビーの枠にとらわれないチャレンジングマインドを持った人財の採用を増やしていく必要があると思っています。新規事業や海外事業を成長の軸として確立しなければならないので、新しいことを仕掛けている人やイノベーション人財、海外対応型の人財を採用していきたいです。また今は社内に埋もれていても、そうした適性を持った方はまだまだいると思うので、発掘してスポットライトを当てていきたいですね。

増渕:
埋もれている人財を発掘するために、チャレンジ制度の改善以外にされていることはありますか。

武田:
まずは教育を変えていくことが大切だと思っています。社内の様々な研修も手を挙げれば参加できるようにしました。また人事がオブザーブだけでなく、アセッサーとして研修に入り、研修後に受講者にフィードバックをするという試みも始めます。単純に制度を利用してもらうだけでなく、人事が深く関わるようにすることで、次はこんな研修を受けませんか?と個別に声掛けもしています。

人というリソースは一番の可能性がある。

増渕:
最後に世の中の人事の方にメッセージをいただけますか。

武田
私自身は、人・モノ・金・情報と言われる中で、人というリソースが一番可能性を秘めていると思っています。人数以上の価値が成果として出せますから。いかに人事という仕事に価値があるか。それは考えてほしいですし、誇りに思ってほしいですね。

また性善説マネジメント、性善説人事をお願いしたいです。現場の力を信じて、制度を作ったり運用してほしいと思います。現場で働く方々の思考を奪ってしまうようなルールを作るのではなく、みんなが自分たちの頭で考えることができるような制度を作って、人を育ててほしいですね。

増渕:
全員活躍という言葉とも繋がるお話ですね。本日は、貴重なお話をたくさん聞くことができました。本日はありがとうございました。

武田
どうもありがとうございました。

武田さんのインタビュー記事 前編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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