STRUCT REPORT
採用コラム

【イベントレポート】楠木 建 氏(一橋大学大学院 教授)『人事がもつべき経営視点、ストーリーとしての競争戦略』とは

2021年6月1日、有識者を集めたオンラインイベント「経営×採用STRUCT サミット2021」を開催いたしました。

コロナ禍により、多くの企業経営は方針転換の真っただ中にあります。経営方針や事業戦略の変化にともない、採用戦略・人事戦略も描きなおす必要がある。そんな人事・経営者のみなさまに、23新卒採用においても、トレンドをキャッチしながら具体的施策のヒントを得ていただける機会を目指したイベントです。

本記事では、一橋大学大学院 経営管理研究科教授・楠木建氏によるプログラム『人事がもつべき経営視点、ストーリーとしての競争戦略』について、講演の様子を一部ご紹介いたします。

当日は約200名の方にご参加いただき、アンケート結果では8.7/10と大変満足度の高いプログラムとなりました。参加者からは「ビジネスに大切なことをシンプルに表現していただき、目的が明快になった」「各企業のビジネスモデルの例が参考になった」等の声をいただいております。

尚、イベント当日の動画もご用意しております。詳しいデータ・スライドがご覧いただけますので、申請の上、ご活用ください。

一橋ビジネススクール教授。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)など著書多数。

登壇者:楠木 建 氏
一橋大学大学院 経営管理研究科 教授

1.経営(戦略)は、自然現象ではない

楠木氏:皆さん、こんにちは。本日は、私が考えていることをお話したいと思います。大前提としまして、「商売」は「科学」とは違う、つまり「法則」がない世界です。
「自然科学」のような再現可能な議論はなくても、「経営」について「論理」はあるのではないかと思っています。「論理」の良いところは、ちょっとやそっとじゃ変わらないところです。

「競争戦略」はゴールが間違っていると意味がありません。
では、何がゴールかというと「長期利益」です。長期利益こそが、経営者の目指すべきゴールなのです
これは、一瞬儲けるって話ではなくて、「どうやったら長いこと儲かるかな」という、これがあらゆる判断の基準になるべきである、というのが私の立場であります。
長期的な利益が出ていれば、「やめてくれ」って言ったって投資家から評価され、結果として株価も上がり、それが投資家に対しての利益貢献にもなります。

「働きがい」これも、ものすごく大切です。(皆さん人事の方が多いかと思いますが)やっぱり儲かる商売がないと雇用をつくって守れない、給料も払えないと。反対に働きがいのある方がたくさんいらっしゃれば、それが長期利益の源泉にもなります。
「長期利益」を実現する手段が「戦略」であり、そこに経営者の役割があるという前提です。

2.シンプルに考える

次に、「利益」とは何か、についてお話します。

利益の定義「WTP-C=P」、このWTPとは「Willingness to Pay」、お客様が支払いたいと思う水準です。
経営側からすると、「売り上げ」です。では、なんで売り上げが立つのか?それは、お客様が「WTP・払いたい」と思うから、それが売り上げになるのです。

一方で、当然コスト(Cost)がかかります。プロフィット(Profit)は、WTPからコスト(C)を差し引いた残りである、ということは、要するに、次の3つしかない訳です。

1.WTPが増える
2.コストが減る
3.1と2の両方

最終的には、この3つのどれかに行き着きます。このシンプルさが、私は「商売」の良いところだと思っています。
すなわち、他の様々な活動(例えば、政治とか)と比べると、勝利条件がやたらと明確。
改めて、この「長期利益」という勝利条件に、あらゆることを結び付けていくことが大切で、それは「人事」でも全く同じだと思っています。

3.競争戦略の基本論理=競合他社との違いをつくる~OEとSP~

そのための「戦略」ですが、これもまたロジックはシンプルで、違いがあるから選ばれるのです。
皆さまのご商売も様々な違いを競争相手に対してつくってらっしゃると思いますが、ポイントは「色んな違いを2つのタイプに分けて考える」ということです。

一つは「OE」(Operational Effectiveness)と言って「どっちがBetterなの?」という違いです。「ものさしがある違い」と考えて頂ければと思います。人間で言えば、身長とか体重とか年齢、視力とか、足の速さとか、ものさしをあてて「AさんがBさんより、どうだ」というタイプの違いです。

もう一つのタイプの違いを「戦略的な位置取り」という意味で「SP」(Strategic Positioning)と言っています。これは「Different」つまり、「AとBは違います」という、「ものさしがない違い」です。

「なぜこの区別にこだわるか」を申し上げますと、戦略・違いをつくることは、他社に対して「Different」になることです。仮に他社に比べて何かのものさしで「Better」であったとしても、それは戦略ではない、ということです。

4.Red Bullが大ヒットした背景

具体的な例でイメージをしていただきたいのですが、「Red Bull」という商品、お飲みになったことがある方も多くいらっしゃるかと思います。これは、オーストリアの会社でありまして、オーストラリア人のマテシッツさんが1980年代の終わりにつくった商売です。

この方は元々会社勤めをしておりまして、当時初めて日本に出張で来たら、人々が小さな茶色いビンに入っている飲み物を飲んでいるのを目撃したと。これは何かと言いますと「リポビタンD」なんです。
マセシッツさんが、知り合いの日本人に「あれは何か」と訊ねたところ、「強いて言うなればエナジードリンクだろう」と、言われたそうです。

日本を始めとするアジアには、当時すでにどの国に行っても、その国々のエナジードリンクというカテゴリーがあったのですが、当時のヨーロッパ・アメリカにはありませんでした。

マセシッツさんは、この商売をヨーロッパでやりたいなと思って、日本を始めとするアジアの色んなエナジードリンクの会社に「ライセンシングでやらせてくれない?」と交渉したところ、最初に「いいよ」と言ってくれたのが、タイにあるRed Bullという会社でした。
つまり、中身は「タウリン」であり「カフェイン」であり、別に「Better」ではないんです。
しかし、Red Bullは「Different」なんです。

「リポビタンD」に代表されるアジアのエナジードリンクは、「お父さん、残業で疲れました」というところから話が始まっていて、「疲労を回復しましょう」「マイナスをゼロに戻す」という飲み物。

ところが、マセシッツさんは、これは翼を授けるもので「ゼロから上げていく、プラスをつくっていくもの」だと考えた訳です。つまり「残業で疲れちゃった」ではなく、これから気合い入れるぞ!という時に飲むものだと。
若者がクラブでおどる前にエントランスで買って飲む、エクストリームスポーツの選手が試合前に飲む、これがRed Bullのコンセプト、翼を授けるということです。なぜかと言ったら、「疲れている奴より、気合い入れたい奴の方が多いんじゃない」って言う、単純な話なのです。

これは、必ずしも「Better」じゃないけれども、はっきりとした「Different」をつくっている、ということであります。

~中略~(以下、動画内にDell・無印良品・pigeonの戦略に関するお話があります)

5.「競争」と「競走」は似て非なるもの

時々、スポーツの例えで「戦略」や「競争」を理解する方がいらっしゃいますけれども、これは根元のところでちょっと間違っています。トップからビリまで縦一列に優劣が並ぶのが、スポーツの競争。「どっちかが勝てば、どっちかが負ける」というのがスポーツの世界です。

ところが、これに比べると商売事は遥かに平和な世界です。
ひとつの業界にも同時に複数の勝者が存在するのです。なぜなら、お互いに全く「Different」なポジションを取るからです。
ピジョンもジョンソン・エンド・ジョンソンも、今のところどちらも勝者。お互いに全く「Different」なので、どっちが優れている、と議論する意味はほとんどない。全世界を征服する必要はないのです。

「戦略」の本質は、その企業に「何がないか」そこに現れます。
戦略的な人は、何を見ても聞いても「それが何ではないか」を考えられる人だと思います。例えば、星野リゾートの星野さん。この方は、極めて優れた戦略家だと尊敬しているのですが…

以降、動画にて「星野リゾートの戦略とは」、楠木氏の「ストーリーとしての経営戦略とは」について、本質に迫りながらもユーモアあふれる解説がございます。また、後半では弊社代表増渕とのパネルディスカッションの様子もご覧いただけます。ご興味がございましたら申請の上、ご活用頂けましたら幸いです。

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