採用弱者が優秀な人材を採用するための、常識の逆張りとは? ~元・JT/米田氏(後編)~
経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第五回目となる今回は、元JT(日本たばこ産業株式会社)執行役員の米田靖之さんにお話を伺いました。
本記事はその後編となります。(→前編はこちら)
1982年、東京大学工学部を卒業し日本専売公社(現JT)に入社。関西工場・ニューヨーク事務所・人事部採用担当・M&Aプロジェクト・人事部採用チームリーダー・経営企画部調査役・人事部長・製品開発部長・たばこ中央研究所所長を経て、執行役員R&D責任者となる。2015年の退任後はLIFE STAGE LABを設立し、企業の人材採用アドバイザーを務めている。
2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。
増渕:
前編から引き続きよろしくお願いします。
JTは採用においては人気の企業ではないというお話でしたが、その人気のない企業になぜ優秀な人材が集まるのか、その辺りのお話をお聞きできたらと思います。
米田:
はい、よろしくお願いします。
それでは順を追ってお話させてください。実は私が採用担当の仕事をするようになったのも、採用が上手くいってなかったからなんです。JTはメーカーですから理系の学生を多く採用したいのですが、1985年に専売公社が民営化されJTになった以降、人気が下がり、特に理系の学生を採用できなくなりました。
そこで理系の採用は理系出身者に任せた方がいいのではないか、という話になり私が採用に携わることになったんです。
増渕:
理系の人の気持ちは理系の人の方がわかるはずだ、ということですね。
米田:
そうです。ですが、そういった経緯で採用担当になったものの、はじめは何を学生にPRすべきなのか全くわかりませんでした。1ヶ月ほど悩みに悩み続け、ようやくたどり着いたのが、自分自身の気持ちを考えてみることだったんです。
学生の気持ちはいくら考えてもわからないですけど、自分のことであれば誰よりも理解できます。自分はJTのどこが好きで、なぜ働き続けているのか。そういったことを徹底的に考えてみることにしたんです。
そうして出てきたのが、JTには『変な人』が活躍できる風土がある、ということでした。私は入社して5年目にニューヨーク事務所の配属になったのですが、その時の上司がまさに『変な人』だったんです。発想が豊かで型にハマらず、自分がいいと思ったことへの圧倒的な推進力を持っていました。失敗も多く大きなトラブルを起こすこともあったのですが、本人は気にしないし、会社もその人をクビにしたりはしませんでした。
そんな上司の姿を見ていたので私も「やりたい放題やっても大丈夫な会社なんだ」と思い、それからは色々と自由にやらせてもらいました(笑)。
常識の逆張りで採用活動をやってみる。
増渕:
そんな米田さん自身の経験をもとに、『変な人』が活躍できる企業風土を伝えていく採用活動を行っていったわけですね。
米田:
そうです。これからJTに必要なのは『変な人』だと思っていましたし、『変な人』を受け入れられる風土もある。なにより私自身がそこを一番の魅力だと感じている。もうこれしかないなと思いました。
増渕:
そこから実際にどんな採用活動を行っていったのでしょうか。
米田:
JTは採用において人気がないというのが前提にありましたから、普通にやっていてもいい人材は採用できません。そこで常識の逆張りで採用活動をやってみようと考えたんです。
応募数をとにかく集めて、一人でも多くの学生と会った方がいい人材を採用できる、というのが今でも多くの企業が信じている採用の常識だと思います。ですが私は一人ひとりにJTのよさをじっくり伝える方が結果的にいい人材の採用に繋がると考え、会う人数をグッと減らしてみることにしたんです。
堅い会社→変な会社にイメージを変える。
増渕:
採用が上手くいっていない中で、会う人数を減らすというのは勇気がいったのではないですか?
米田:
そうですね。ですが何かを大きく変えなければ大きな成功は望めないと思っていたので、チャレンジしてみることにしました。
まず書類選考の通った学生全員と最初に私が会って1時間程度話し込み、10年後活躍できそうな『変な学生』を見つけます。その後、少なくとも3人の社員に会ってもらうようにしました。3人とも私が選んだ、とっておきの『変な人』です。
『変な社員』に会ってもらうようにしたのは、JT=堅い会社というイメージを払しょくし、『変な学生』に自分と相性のいい会社だと思ってもらえるようにするためです。また3人に会わせるようにしたのは、1人や2人『変な社員』に会わせても、堅い会社という強いイメージを払拭することができなかったからです。
でもさすがに『変な社員』にばかり続けて3人も会うと、ほとんどの学生が「JTは変な人がいる会社なんだ」と理解してくれたんです。多くの学生と接する中で、社風を理解してもらうためには少なくとも3人の社員に会わせる必要がある、ということがわかりました。
常識の逆張りで採用を行ったことで、最終的に前年と比べ半分以下の学生にしか会えませんでしたが、私が狙った通りの『変な人』を採用することに成功したんです。
ウチの会社があなたに一番合います、とは絶対に言えない。
増渕:
中には他社からも内定をもらっている学生もいたと思うのですが、そういった時にJTを選んでもらうためにしていたことはありますか?
米田:
採用というのは企業と学生との相性なので、能力が高い学生でもJTにフィットすると思えない時はフォローしません。逆にJTの方が合うのに企業のブランドやネームバリューで他社に就職を決めようとしている学生は、徹底的にフォローをしていました。
でも人事として、ウチの会社があなたに一番合います、とは絶対に言えないですよね。他の会社を全て知っているわけではないので。
ですから競合している会社と比べてどうかということではなく、『JTのこと』と『会社の選び方』を教えるようにしていました。そういったフォローを続けていると、強引に口説いたりせずとも自然とJTを選んでくれる学生が多かったです。
世の中に面白い仕事なんてない。
増渕:
そもそもがJTに合うと思った学生にしか内定を出していないからこそ、高い確率で選んでもらえるということですね。
米田:
そうです。人気企業と競合してもJTを選んでもらえることが少なくなかったですね。
増渕:
ちなみに米田さんの考える『正しい会社の選び方』というのを教えていただけますか?
米田:
JTを退職してから就職活動中の学生さんの悩み相談に乗ることも多いのですが、そういった時に伝えるのは「一番大切なのは、社風である」ということです。
私は世の中に面白い仕事なんてないと思っています。その仕事が面白そうに見えるのは、その仕事をしている人が優秀で仕事ができるからです。
ですから面白い仕事をしたかったら、仕事ができるようにならないといけません。そしてそのためには最初の5年は熱中して働き続けられないと、プロとして通用する力は付きません。そう考えていくと、そもそも社風が合う会社でないと長く熱中して働き続けられないので『社風が合う会社を選ぶ』ことが一番大切であるというのが、私の思う正しい会社の選び方です。
自分のために採用する。
増渕:
ここまで米田さんの話を聞いていると、誰かの事例や他社の取り組みを参考にしたり真似したりするのではなく、全てご自身で考えて採用活動を行ってきたように思いました。米田さんからこの記事を見ている、人事担当の方や採用に携わっている方にメッセージがあればお願いします。
米田:
会社のために採用するのではなく、自分のために採用すると思った方がいいと思います。会社のためと思うとどうしても人ごとになってしまいますし、仕事をしていても面白くありませんから。
例えばベンチャー企業の経営者は採用に必死です。それは人数が少ないので一人が会社に与えるインパクトが大きいからです。でも大企業であったとしても、いい人材を採用していかなければ会社の業績は長期的には必ず落ちていきます。ですから将来の自分が危ない、と思って採用に関わるといいのではないでしょうか。
そして、もっともっと図々しくやればいいと思います。事業や経営のことがわからないと採用に閉じた仕事をしてしまいがちになりますが、わからなくともまず“自分の会社”と思いこんでみてください。大袈裟ですけど、どんな業務も社長になったつもりで取り組んでみてください。
私が初めて採用担当をしたときは入社6年目で、事業や経営のこともわかっていませんでした。ですが勝手に、JTをどんな会社にしたいかという10年後の理想像を自分で描き、それに合う人材を採用していました。
もちろん置かれている立場や企業の風土もそれぞれ違いますが、採用をいかに自分事にできるかどうかが、採用の成功・不成功を大きく分けると思います。
増渕:
会社から与えられた採用人数を充足させることを目指している人事と、会社の未来を考えて必要な人材を採用しようとする人事とでは、確実に大きな違いを生みそうですね。
今回のインタビュー企画「V字回復の採用戦略」は、経営や事業に携わる人事を増やしたいと始めた連載ですが、勤めている会社を“自分の会社”と思えるかどうかが、その第一歩になりそうですね。
米田:
そうだと思います。意識が変わるだけで取り組み方も成果もガラッと変わりますからね。
増渕:
そうですね、貴重なお話をたくさん聞くことができました。
本日はありがとうございました。
米田:
どうもありがとうございました。
<米田さんのインタビュー記事 前編はこちら>
増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー
理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。
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