STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

「変な人」が企業を救う。これからの時代に活躍できる人材を見極め採用するには? ~元・JT/米田氏(前編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第五回目となる今回は、元JT(日本たばこ産業株式会社)執行役員の米田靖之さんにお話を伺いました。
本記事はその前編となります。(→後編はこちら

1982年、東京大学工学部を卒業し日本専売公社(現JT)に入社。関西工場・ニューヨーク事務所・人事部採用担当・M&Aプロジェクト・人事部採用チームリーダー・経営企画部調査役・人事部長・製品開発部長・たばこ中央研究所所長を経て、執行役員R&D責任者となる。2015年の退任後はLIFE STAGE LABを設立し、企業の人材採用アドバイザーを務めている。

ゲスト:米田靖之
 

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
本日はよろしくお願いします。

米田:
よろしくお願いします。

増渕:
さっそくですが、米田さんがご活躍されたJTのお話を聞かせてください。JTは大手企業で安定しているイメージですが、私のまわりを見ても喫煙者の人口は減っているように思います。実際はどうなのでしょうか。

米田:
国内のたばこ消費量は1996年の3483億本をピークに下がり続け、2019年には1181億本と3分の1まで落ち込んでいます。

増渕:
そうなると、たばこの製造・販売がメイン事業であるJTには大きな影響がでますよね。

米田:
そうですね。でも驚かれるかもしれませんが、そんなシュリンクしているマーケットの中にあっても、2021年1月時点で日本の時価総額ランキングで30位に入っています。意外と世の中からは高い評価を得ているんですよ。

10年前に採用した人材が海外事業を成功に導いた。

米田:
実はJTは海外のたばこメーカーを買収することで、売上・利益を伸ばしているんです。1999年に約9400億円、2007年 に約2兆2500億円といずれも当時の日本企業の外国企業買収としては史上最高額での買収を行いました。

増渕:
国内の需要が減ることを見越して、積極的な海外戦略をとったわけですね。多くの日本企業は外国企業のM&Aに失敗しているイメージがあるのですが、JTが上手くいった理由は何だと思われますか。

米田:
いろいろあると思いますが、一部採用が寄与した部分もあると思っています。私が人事として採用に関わったのは1989年度入社の新卒採用からです。その時に採用した人材が、大型買収を実施した1999年でちょうど入社から10年経っていて、一人前のビジネスパーソンとして第一線で活躍していたんです。そういった優秀な人材が買収した企業のキーポジションで活躍してくれました。

増渕:
米田さんが採用した人材が10年経って成長し、収益の柱となる海外事業を成功に導いたわけですね。

採用基準は「変な人」であること。

増渕:
米田さんが採用に関わるようになって、それまでと何か変えたことはありますか?

米田:
採用基準を明確に変えました。『変な人』を採用するようにしたんです。『変な人』というのはネガティブな意味ではありません。まわりの評価を気にせず、ルール・前例に縛られずに、自分がいいと思ったことを推し進めることのできる人材を私は『変な人』と呼んでいるんです。

私が採用担当になるまでのJTも含めて、日本の多くの企業は決まったルールの中で成果を残せる人材を重宝してきました。ですが、そういった人材はイノベーションを起こすことが苦手です。私はこれからの時代に活躍できるのはルールに従う人ではなく、自らルールを作る人材だと思っていたので『変な人』の採用に舵を切ったんです。

増渕:
活躍している社員から採用ターゲットを考えるのではなく、会社の未来を見据えて必要だと思う人材をターゲットに据えたのですね。

米田:
そうです。現在活躍している社員からターゲットを設定すると、その社員を超えるような人材が採用できなくなる恐れがあるので、あえて10年後の未来から考えることにしたんです。10年後にJTをどんな会社にしたいかという理想像を描き、それに合うと感じる人材を採用していきました。

面接では、流れのよさを見る。

増渕:
選考という限られた時間で、将来活躍してくれる人材かどうかを見抜くのは簡単ではないと思います。米田さんは学生のどこを見て判断されていたのですか?

米田:
私が見ていたのはその人の人生の『流れ』です。『流れ』というのは『運のよさ』と言い換えてもいいかもしれません。

私が思う運のいい人というのは、自分にチャンスが来ていることを敏感に察知し、それを逃さずに掴める人です。そしてチャンスを掴めるように普段から様々な準備や努力をしている人です。ですから『流れ』のいい人は、入社後もチャンスを掴んで成果を出してくれる確率が高くなります。

増渕:
運も実力のうちということですね。

米田:
そうです。一見、運がいい人のところにばかりチャンスが巡ってきているように見えますが、チャンスが巡ってくる回数はみんなさほど変わらないと思います。チャンスが巡ってきたことに気が付き、それを掴める人を私は面接で評価していました。

10年周期で採用に関わる人を作る。

米田:
私は、採用が成功したかどうかの結論が出るのは、採用した人材が10年後に活躍しているかどうかだと思っています。ですから『10年後に活躍できる人材』を採用することを意識していました。

でも面接で今の実力はわかっても、10年後に誰が伸びるかなんて普通わかりません。そのため多くの企業が面接時点で優秀に見えた人を採用するのですが、入社したら期待していたような活躍人材にならなかった、ということが起きてしまうと思います。

そういった失敗を回避するために私がやっていたのは、学生の過去10年間の人生を徹底的にヒアリングし、これからの10年を予測する方法です。切片と傾きのグラフをイメージしていただけるとわかりやすいと思います。切片を現在として、傾きをこれまでの人生から導き出していきます。そしてその傾きから10年後その人がどれだけ成長しているか、伸びているかの予測を立てていくんです。

増渕:
過去の伸び率とこれからの伸び率はそこまで変わらないという仮説のもと、未来の姿を想像し評価するわけですね。その理論で採用した人材は、入社後は期待していた通りの活躍を見せたのですか?

米田:
もちろん予測なので100%ではありませんが、高い確率で期待以上の活躍を見せてくれました。幸い私は約10年おきに採用に関わらせてもらったので、10年前に採用した人は成長しているか、20年前に採用した人は活躍しているか。そんな答え合わせをしながら、修正を加え採用活動の精度を上げていくことができたんです。

なかなかそこまで長期で採用の振り返りができている企業はないと思いますが、私のように10年周期で採用に関わる人を置くことで、採用活動に対する精度の高い振り返りができるようになると思います。

採用で組織風土を変えていく。

増渕:
米田さんはR&D部門の採用もされていらっしゃいました。研究開発部門ということもあり、知的能力や専門性を重視した採用活動を行われていたかと思います。総合職採用とどう考え方を変えてR&D部門の採用を行っていたのですか?

米田:
基本は総合職もR&D部門の採用も同じ観点で行っていましたが、R&D部門のほうがより『変な人』という点を重視して採用していたかもしれません。当時のJTで働いていた研究者は、真面目な人たちが大半でした。そういった人材ももちろん必要ですが、新しいものを生み出すのに普通の発想の人だけではいけません。

これからのR&Dには新しいものを生み出すことが一層求められるというのはわかっていたので、イノベーティブな組織を作ってくために、今までの採用基準をガラッと変えたんです。

R&D 部門は当時500人程の組織でした。そこに毎年20人ずつ『変な人』を採用していったんです。5年続くと100名ですから、そこまで変な人の割合が増えていくと、明らかにR&D部門の風土が変わったことを感じました。

また採用した『変な人』には、選考段階から「新しいことや面白いことをやってほしい」と伝え続けていたので、それまでの社員よりもチャレンジすることへの抵抗がなく、新しい商品や新しいサービスも次々と生まれていきました。

増渕:
意図した通りに、採用で組織を変えていくことに成功したわけですね。 ですが多様な人材や異能な人材を採用するとマネジメントがしづらいので、現場から不満が出たり、せっかく採用した人材が馴染めずに辞めてしまったりすることもあると思います。その点はいかがですか。

米田:
もちろんJTにもそういった問題はありました。そこで採用した『変な人』を、R&D部門の責任者である私の直轄プロジェクトに一定期間入れることにしたんです。

これまでと違うタイプの人材を採用する場合には、どうやって組織に馴染んでもらうかまできちんと設計することが大切だと思います。

イノベーションを起こせる人材から選ばれるための常識の逆張り。

増渕:
私の知人にもJT出身の人がいます。また話に聞くJTの社員やJT出身のビジネスパーソンは、本当に優秀な方が多いと感じています。なぜJTには優秀な人材が集まるのでしょうか。

米田:
正直に言うとJTは採用において人気の企業とは言えません。私も一番初めに採用担当になった時は、学生にPRできることが無くて悩みました。「日本一のたばこ会社です」と言っても学生には響かないですからね。

増渕:
自分たちは採用弱者である、という認識だったわけですね。

米田:
そうです。人気がなかったので、普通にやっていても勝ち目がない、と思っていました。そこで色々考えた結果、常識の逆張りで採用活動を行うことにしたんです。そうすると結果的に優秀な学生を採用できるようになりました。

増渕:
そうなんですね。大変興味深いお話なので、そういった実際の採用活動に関する取り組みは次のパートでじっくり聞かせてください。

米田:
はい。引き続きよろしくお願いします。

<米田さんのインタビュー記事 後編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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