採用力強化したいなら、新卒採用担当は3年で卒業させるべき。 ~Jストリーム/田中氏(前編)~
経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第三回目となる今回は、株式会社Jストリームの田中潤さんにお話を伺いました。
本記事はその前編となります。(→後編はこちら)
新卒で日清製粉株式会社に入社後、営業職を経て人事職を経験。その後、株式会社ぐるなびで人事責任者として一部上場後の急成長期を支える。2019年7月からは株式会社Jストリームにて人事部長を務めている。経営学習研究所(MALL)理事、慶応義塾大学キャリアラボ登録キャリアアドバイザー、キャリアカウンセリング協会gcdf養成講座トレーナー、キャリアデザイン学会代議員。にっぽんお好み焼き協会監事。
2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。
増渕:
本日はよろしくお願いします。インタビュー前に少しお話を伺っていて驚いたのですが、新卒担当は3年で卒業したほうがいい、という考え方には驚きました。
田中:
この話には前提となる価値観がありまして。私が日清製粉で人事をしていたときに社内で掲げていたスローガンに「採用は愛とマーケティング」という言葉があって、まずその辺りから話していくのが良さそうですね。
増渕:
田中さんはいまはJストリームにいらっしゃって、その前がぐるなび。日清製粉はたしか新卒で入社された会社でしたよね。
田中:
採用に携わり始めたのは、私が29歳の頃なので、もう30年くらい前ですね。
増渕:
言葉として、愛の部分は、人材に関わる人であれば共感しやすいところだと思います。ただ、いまでこそ採用にマーケティング的な発想を取り入れる考えは一般化していますけれど、当時は採用にマーケティングといわれてもピンとくる人は少なかったんじゃないでしょうか。
田中:
まさにそうですね。採用チームのメンバーは、言葉を聞いたとき最初ポカンとしてました(笑) でも、取り組み自体はいまからすれば大した事はしていなくて。単に4Pのフレームで自社を分析して採用戦略をたてるとか、今だったらノウハウも豊富にあるから誰もが実践しているようなレベルのことだったはずです。
手法が進化する一方、新卒採用には不変の要素もある。
田中:
私はもともと営業職から人事に異動した背景もあって、生え抜きの人事の方々と差別化できる強みが、たまたまマーケティングの観点だったというのが大きいですよ。人事経験は浅いけれど、営業で培ったマーケティング発想を活かせば、採用業務でも結果を出せるんじゃないかと。
ここから冒頭の話に戻りますが、近年はマーケティングノウハウは普及したし、便利なツールも増えてきましたよね。かつてほど、マーケティングを知っている、知っていない、の差はなくなってきています。手法の違いで差別化しにくいなかで、あと何が差別化要因になるかと言えば、残るは「愛」なんですよ。
増渕:
採用は「愛とマーケティング」の「愛」の部分の話ですね。確かに、手法やノウハウの情報はネット上にもどんどん増えています。
田中:
はい。それで人事にとっての愛というのは、具体的に言うと人と向き合うための熱量だと思っています。時間があるかぎり、一人でも多くの学生と会って、少しでもその人の良いところを引き出そうとする情熱です。人に向き合うための熱量が、新卒採用担当者には求められます。
多くの場合、この熱量は1年目がピークです。新しい業務にチャレンジする緊張があって、ワクワク感があって。学生から聞ける話も、新鮮に感じられて。高いモチベーションを発揮できます。
粗削りだけれど、一生懸命に頑張る担当者の姿は、学生の立場からしても好ましく、志望度向上の観点でもプラスに働くことが多いです。
しかし、人間は学習して慣れる生き物ですから、2年目にも1年目と同じ感覚を維持することは難しいんです。ただ、幸いなことに、2年目には「改善」という、次のステップがあります。1年目に上手くできなかった点を改め、仕事に慣れたことで自分なりの色を出していくこともできます。創意工夫の面白さが原動力になるんです。
増渕:
3年目はどうなりますか?
田中:
3年目は集大成です。これまで培ってきたことを駆使して、成果を最大化するために全力で取り組みます。そして、たいていの人は、ここで燃え尽きてしまいます。これは悪いことではなくて、それだけ熱心に取り組んできた証だと思っています。
新卒採用業務は、若くして大きな裁量を持つことができ、使える予算が大きい。社内の協力を仰ぐ必要もあります。社会人として貴重な経験が得られる仕事です。熱心に取り組めば、1~3年くらいまでは急激に能力が伸びます。ただ、4年目以降は、ある程度こなせるようになってしまうために、成長に必要な負荷がかからなくなってしまうんです。
人事のキャリア的にも、採用効果の観点でも、できれば新卒採用担当は3年で卒業するのが理想です。採用効果の観点で見ても、学生と年齢の近い担当者のほうがコミュニケーションがスムーズであることが多いようです。人事のなかで、若さが経験に勝れる、数少ない領域が新卒採用だと思います。
採用しか経験していない人間は、一人前の人事とは言えない。
増渕:
ちなみに新卒採用の担当は3年で交替だとすると、その後の人事のキャリアはどんな風に考えたら良いでしょう。
田中:
実はその質問については、私も同じ洗礼を受けた体験があります。私は新卒で日清製粉に入社して、営業職を7年経て人事に異動しました。採用の仕事は採用の仕事なりに面白くて、人事も天職だと感じたこともありますが、でも当時はやっぱり、いずれ営業に戻りたいと思って働いていたんです。
だから、人事で採用活動に関わり、3年して自分なりに一定の成果が出たと感じたタイミングで、営業部門への異動希望を出していました。
そこで当時の人事部の上司から言われたのは「採用しか経験していない人間は、一人前の人事とは言えない」「人事部にいた人材として、営業に戻すわけにはいかない」という言葉でした。
増渕:
人事の機能は、採用以外にも育成、配置、評価、報酬と幅広いので、人事としてもっと幅広い経験を積みなさいということでしょうか。
田中:
まさにそうです。採用だけが人事じゃないと。採用は人事の一部でしかないんだと言うわけです。ストレートな正論に、なるほどその通りだと納得せざるを得ませんでした。
実は、このときの上司の判断こそが、私が人事畑で生きていくきっかけにもなっていて、結局41歳でグループ会社に営業部長として異動するまでの間、10年以上、人事部に在籍することになりました。人事制度の立案・運用、人材の育成、もちろん給与計算のような細かい業務まで、人事のありとあらゆる仕事を経験させていただき、いま振り返ってみれば、キャリアの基礎を固める期間になっていたのだと感じます。
人事が成長するためには、意識的な社外交流も必要。
田中:
人事業務には攻めの要素と守りの要素があって、私が最初に担当していた採用業務は、完全に攻めの仕事。外部との交流が非常に盛んで、私の性分にあっていました。対して、育成、配置、評価、報酬…となると、守りの要素が強まってきます。それが個人的に性に合わなかったので、残留の条件として、外部に出て学ぶ機会を得ることの了承を取り付けました。
増渕:
人事の勉強会はいまでこそ盛んですが、当時はそんなに多くはなかったでしょうね。
田中:
そうですね。いまどきのように個人が発起人になるような会ではなくて、専門機関が主催している勉強会に参加していました。社外の人事の方と話をするようになって驚いたのが、自分と同じような悩みや課題感に対して、こんなにも多くの人が、日々向き合っているのだと知ったことです。
人事は営業などの部署に比べると、刺激しあえる同期が少なかったり、職務が分業されていたりして、社内にロールモデルや成長のヒントを見出しにくい職種だと思っていました。社内に採用担当が1人だけという企業も少なくないと思います。
志を同じくする方々との交流は、営業時代に社内や社外の方と連携しながら取引先を開拓していくときのワクワク感にも似た楽しさがあって、改めて人事の仕事は面白いと感じるきっかけになりました。このときに知り合った方との交流・人脈は、いまでも仕事に活きていますよ。
いまはコロナウイルスの影響で新たな人脈を対面で築くのは難しくなっていますが、学びの機会は探せばたくさんあるので、仕事や成長に行き詰まりを感じている方は、その答えを外部に求めてみると道が開けるかもしれません。
人事は経営のパートナーであり、現場のサポーター。
田中:
早く営業に戻りたいと言っていた私が言うのも説得力に欠けるかもしれませんが、人事でキャリアを作っていきたいなら、オールラウンダーを目指すのがお勧めです。
増渕:
オールラウンダーというのは、ゼネラリストではなくて、人事部門のなかで幅広い業務に対応できるという意味でのオールラウンダーですか?
田中:
そうです。おっしゃる通りです。私はスローガンを作るのが好きなので、これもあちこちでお伝えしている言葉ですが、「経営に役立つパートナーとなり得る、戦略性をもった人事になろう」「社員と現場に役立つサポーターとなり得る、信頼性をもった人事になろう」。人事は、大きくこの2つの方向を目指すことが重要だと考えています。
たとえば営業だったら顧客がいて提案して…という流れがあるように、人事にとっての顧客は経営と現場です。そして、パートナーやサポーターになるために必要なのが人事としての専門性です。いざ何か質問されたときや相談を受けたとき、ここぞというタイミングでしっかりと語ることができるだけの人事の知識・経験が求められます。人事に関することなら何でも相談してください、と胸を張れる存在にならないといけません。
増渕:
なるほど。それでオールラウンダーという発想になるわけですね。
田中:
これは余談ですが、将来、役職があがっていき人事部長になったとして、そのとき部下の仕事ぶりを評価したり、意思決定が求められたりしたときに、「評価制度はわからない」「給与計算は知らない」では通用しませんよね。
そういう意味でも、人事でキャリアを形成したいなら、人事部内で様々なポジションを経験しておいて損はないと思います。
増渕:
ちなみに、いまお話いただいたことは、人事として、知識・経験の「広さ」と「深さ」の両方を追求していくという、矛盾ではないですが、なかなか茨の道のようにも思える方法論に聞こえてしまいますが、その辺りいかがでしょう。
田中:
その点については、私なりの考え方があるので、このあとのパートでぜひお話させてください。
増渕:
ありがとうございます。後編も引き続きよろしくお願いいたします。
<田中さんのインタビュー記事 後編はこちら>
増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー
理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。
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