Jump 働きたくなる会社を、日本中に。

STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

たった1年で入社式の顔ぶれが激変。日立のピープルアナリティクス導入事例に学ぶ採用改革。

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第二回目となる今回は、株式会社BtoAの中村亮一さんにお話を伺いました。
本記事はその前編となります。(→後編はこちら

新卒で株式会社日立製作所に入社。人材データを活用した採用改革を行い、2017年にピープルアナリティクス専門部門を立ち上げ。2018年にソフトバンク株式会社に入社し、人事領域のデジタルトランスフォーメーションを推進。2020年からは、株式会社BtoAにて事業開発を担当。ピープルアナリティクス&テクノロジー協会の上席研究員も務めている。

ゲスト:中村亮一
株式会社BtoA

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが、中村さんと言えば、ピープルアナリティクス導入のパイオニアだというイメージがあります。

中村:
ありがとうございます。ピープルアナリティクスに初めて取り組んだのは、新卒入社した日立に在籍していた頃でした。そのときHRテクノロジー大賞でイノベーション賞をいただいたことがきっかけで、HR関連のイベントなど、色々とお声がけいただけるようになりました。

増渕:
ピープルアナリティクスは、いま研究が進んでいる分野で様々な立場の方がいらっしゃり、まだ定義があいまいな部分もあるので、まずは一例として、中村さんが一番最初に取り組んだ案件について教えていただけますか。

中村:
導入のきっかけは、新卒採用で採用する人材タイプを変えていくためでした。私が採用に関わる以前の日立では、顕在化した課題を深堀して問題解決するのが得意な思考型タイプの方が多く採用され活躍していました。

ただ、今後は経営の方針で、行動的で創造的ないわゆるイノベーション人材の割合を増やしていくことになり、そこでデータ活用を考えました。

日立に多かったのは、優秀な思考型タイプ。

増渕:
具体的には、どんな流れで進めていったんでしょう。

中村:
まずは選考に使用していた適性検査データを分析するところから始めました。いわゆるコンピテンシーモデルの考え方ですね。検査データを大きく4つのクラスタに分類して、クラスタごとにハイパフォーマーの行動特性を抽出していきました。

増渕:
4つに分けるんですね。

中村:
はい。ハイパフォーマーモデルを1パターンしか作らないと、ステレオタイプの人物モデルになってしまいます。たとえば営業職なら、行動的で明るいタイプが優秀者像として出てくる企業が多いのではないでしょうか。でも実際には、成績の良い営業職の方にも色んなタイプがいるはずですよね。

当時の日立もまさにそうで、いわゆる優秀で思考型なエンジニアに多いタイプばかりを採用していたので、複数タイプに分解しないと意図した分析ができないと考えました。そこでまずはA・B・C・Dの4タイプに分類した上で、それぞれのタイプごとにハイパフォーマーの特性を抽出することにしたんです。

増渕:
なるほど。ちなみに、A・B・C・Dのなかで、含有率にばらつきはありましたか?

中村:
予想通りかなり偏っていました。もともと日立に多かったエンジニア気質の方々(Dタイプ)が全体の60%以上を占めていました。一方、これから採用を増やしたかったイノベーティブなタイプ(Aタイプ)は5%程度しかいませんでした。

母集団を変えずに、採用者の質を変えた方法とは?

増渕:
ちなみにAタイプの方は新卒の母集団のなかで言うと…

中村:
割合は少なかったですね。

増渕:
母集団の時点ですでに少なかったんですね…。そうすると、まずAタイプの方にエントリーしてもらえるような広報活動も必要になりますよね。

中村:
実は、分析結果が出たのは2月~4月にかけてでして…。新卒採用は3月1日から広報解禁で4月には面談も始まるスケージュールのため、母集団を集めるためのPR活動には分析結果を反映できませんでした。そんな状況だったので、A・B・Cタイプの応募数を増やすのではなく、選考のポイントを変えることで、A・B・Cタイプの方の特徴を評価する方法を考えました。

既存の社員にはDタイプが多いですから、例年通りいけば、無意識に自分たちに似たDタイプ人材ばかりを通過させてしまいます。過去の実績を調べてみると、A・B・Cタイプの方が選考で落とされてしまう率が高いこともデータとして浮かび上がっていました。

増渕:
そのバイアスを取り除くのは難しいと思いますが、具体的にどんな選考設計をされたんですか。

中村:
簡単に言えば、選考基準を変えて、A・B・Cタイプの特徴(コンピテンシー)をプラス評価する設計にしたんです。Dタイプの優秀層が持つコンピテンシーを評価対象にしてしまうと、Dタイプの方がどんどん選考を通ってしまいますよね。それだと例年と変わらない選考結果になるので、これまでDタイプの方がプラス評価されていたポイントを、選考基準から意図的に引き算しました。

事前に決めた要素以外は、評価させない。

増渕:
面白い考え方ですね。でも、それだと面接官から疑問の声があがりませんでしたか。「この要素は見なくていいの?」と。

中村:
特に出なかったですね。選考基準にしたがって面接すれば、自然とA・B・Cタイプの方が合格しやすくなるように設計した上で、A・B・Cタイプの人を採っていきたいからこの選考基準だと率直に説明していました。

増渕:
とは言え、選考を通過させる人の傾向が変わると面接官として違和感が出そうですが、その点いかがですか?

中村:
それも問題はなかったですね。面接官からは、以前から選考で何を見たらいいか明確にして欲しいと要望を受けていたので、見るべきポイントがはっきりしたことで、むしろ喜ばれました

あと、当時の日立にはエンジニア採用の全社ルールがあって、選考に2回しか呼ぶことができなかったんです。しかも、1人あたり30分の個人面接が2回だけです。これではせっかく作った新しい採用基準を運用しづらいので、選考フローも可能な範囲で変えることにしました。

具体的には、1次面接を集団形式に変更。1人あたり30分だったのを、たとえば4人集めて2時間という形に変えました。前半1時間はグループディスカッションで、後半1時間は集団面接に。前半と後半でそれぞれ見るべきポイントを明確にして、決められた要素以外は評価しないようにお願いしました。

増渕:
決められた要素以外は評価しない…。徹底していますね。

中村:
はい。あと、2次の最終面接は時間を伸ばして1時間にしました。学生さんの素の姿を見るためです。人は30分くらいは緊張状態を保てますが、長時間になると良くも悪くも緊張はほぐれてきます。本音で会話することを目的に、最終面接は1時間に伸ばすことを了承してもらいました。

役員への質問が止まらない入社式。異例の活況。

増渕:
選考基準と選考フロー。これだけ変えると、入社式の雰囲気も前年とはガラリと変わりそうですね。

中村:
かなり変わりましたね。入社式では毎年、社長や役員陣の講話があり、最後に質疑応答があるのですが、これまではほとんど質問が出なかったんですね。それがその年は質問が止まらなくて。しかも質問している新入社員のほとんどが、私の担当したIT部門の者でした。

入社式のあと、懇親会の場で役員の方に声をかけられたほどです。「今年はいつもと雰囲気が違うけど何かあったの?」と。

増渕:
すごいですね。ということは、Aタイプの割合も増えたということですか。

中村:
増えました。Aタイプは2倍くらいに増えましたね。A・B・Cタイプの合計が全体の60%ほどに上昇して、結果的に、Dタイプは40%くらいまで低下しました。狙い通り、Dタイプとそれ以外のタイプのシェアを逆転させることができました。

増渕:
素晴らしい成果ですね。母集団を変えなくても採用の質を変えられるというのは心強い事例だと思います。適性検査を取り入れている企業は多いはずなので、クラスタごとにハイパフォーマーのモデルを抽出する点など、中小企業でも参考にできそうなポイントが多いと感じます。

中村:
ありがとうございます。

中小企業に、ピープルアナリティクス導入は可能か。

増渕:
次にお聞きしたいのは、いまお話いただいたピープルアナリティクスの思想を、実際の業務の中に取り入れていくためには、どんなことに留意する必要があるのか。ピープルアナリティクスはある意味でトレンドワードですから、ご存じの方も多いと思います。しかし、実際に導入できている企業はほとんどないのが実情です。

中村:
そうですね。人事はどこまでいってもサポーティブな立場なので、組織のなかで変革を起こそうとしたときに必ず障壁が立ちはだかります。多くの人事の方にとっては、そもそも経営層に人事施策に対して興味をもってもらうことが一苦労だと思います。

あと、分かりやすく説明するためにA・B・C・Dなんて分類をしましたけれど、現実に人事の方が向き合う人材は、一人ひとり別々の人格です。従業員数が何万人もいる日立でもそれを感じていましたから、数十名、数百名の組織で人事をされている方は、より人対人の難しさを実感されているのではないでしょうか。

ピープルアナリティクスは、一言でいえばデータ活用になりますが、進め方やベースにある思想にはアナログな部分もあります。後半はその辺りのウエットな部分についてもお伝えできればと思います。

増渕:
中村さん、引き続きよろしくお願いいたします。

中村さんのインタビュー記事 後編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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