正社員、公務員、専業主婦、パート、あらゆるキャリアを経験したCHROのキャリアの作り方とは。 ~CaSy /白坂氏(前編)~
経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十五回目となる今回は、CaSyの白坂ゆきさんにお話を伺いました。本記事はその前編となります。(→後編はこちら)
お茶の水大学大学院人間文化研究科修了後、2004年リンクアンドモチベーションに入社。経営理念・ビジョンの策定・浸透や、M&Aに伴う意識統合プロジェクト、女性社員の活躍推進プロジェクト等を手掛ける。その後、参議院議員公設秘書、授乳服専門店のモーハウスを経て、2014年株式会社リクルートホールディングス入社。2018年株式会社CaSyに参画し、取締役CHROに就任。
2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。
増渕:
本日はよろしくおねがいします。白坂さんは現在、CaSy(カジー)という家事代行サービスの会社でCHROを務めていらっしゃいます。大学院を修了された後、就職したのはリンクアンドモチベーション(以下L&M)と伺っています。最初のキャリアにL&Mを選んだ理由から教えてください。
白坂:
それにはまず、私の生い立ちから話す必要があります。
増渕:
白坂さんのルーツ、ぜひお聞かせください。
白坂:
私の生まれた 宮崎県は、農林水産業と土建業が産業の中心で、就業者のほどんどは男性、そして景気の影響が家計に反映されやすい地域でした。景気が悪くなると、女子というだけで4年制大学進学の道が断たれることはまだまだ珍しくなかったんです。
私の両親は高校の教師で、どうすれば優秀な女子生徒の未来が開けるか腐心していた。そんな両親の姿を近くで見ていたからか、私も自然と「人間の可能性が、属性や環境によって制限されることのない社会を作りたい」と思うようになりました。
L&Mは、「人の動機を会社全体の成果につなげる方法」を科学する会社です。そもそも、「人間は一人ひとり異なること」が前提にありますし、「一人ひとりの個性や特徴を活かしながら、どう社会全体のサイクルに繋げていくか」を考えていく社会的影響力の高い仕事だと感じ、入社しました。
個性を、組織発展に活かす。
増渕:
それから8年間、L&Mではどんなお仕事をされたんですか?
白坂:
最初の6年は大手企業を中心に、経営理念・ビジョンを策定して、経営戦略を社内に浸透させる取り組みに携わっていました。個性やこだわりなど、社員一人ひとりの中に矜持として宿っている「組織の魂」は何か、よくよく話を聞いた上で、経営者の見据える「これから進む方向」と撚り合わせていく提案をしました。
策定の次は、「仕事への誇りやチャレンジが、会社を支え、会社の発展に繋がるんだ」ということを社内全体に確信させていく浸透プロセスに注力しました。一人ひとりの個性やこだわりを、組織の発展という未来へつなげられるなんて、天職だな、本当に幸せだなと思って仕事をしていました。
増渕:
考え方も内容も、白坂さんの哲学に合致していたんですね。当時の経験がCaSyでCHROを務める上でも活きているのではないでしょうか。
白坂:
そうですね。L&Mでお客様に対して心を込めてやってきたことを、現在は自社に対してやっている感覚です。
増渕:
後半の2年はどのようなミッションを担っていたのですか?
白坂:
L&Mが10周年を迎えて、社内に貯まっているナレッジやノウハウを集約してメソッド化するR&D組織が立ち上がることになり、初期メンバーとしてそこに参画しました。
そうして創られたのが、「モチベーションアカデミー」でL&Mの独自性を創り出している基幹技術の「モチベーションエンジニアリング」を体系的かつ実践的に学ぶ学校ですね。私の役割はテキストを編纂して、それに基づいて社内の仕組みを作ること。新入社員などのかけ出しコンサルタントが効率よく実力を研鑽できるように、養成プログラムの設計も行いました。そこで、やりきったな、と手応えを感じ卒業を決めました。
M字カーブの当事者でも、キャリアを諦めない。
増渕:
異なるキャリアを歩もうと決められたのはこのタイミングですか?
白坂:
そうです。L&Mを退職した後に議員秘書を務めたのですが、自分がやりたいことはこれではないな、と半年で辞めました。その間に妊娠して、妊婦を採用したいという会社もなかなかないだろうと、一時期は専業主婦として過ごすことになりました。
増渕:
女性の労働力率をグラフで表すと、結婚・出産期に離職する方が多く、M字を描くという特徴がありますよね。
白坂:
はい、私はそのM字カーブの当事者になったんです。でも安定期に入ってやっぱり仕事をしたいと思い、妊婦でも働かせてくれる会社を一つだけ知っている、と思って妊娠5か月になるのを待って門をたたいたのがモーハウスという会社です。
授乳ケープがなくてもいつでもどこでも授乳ができる機能的な授乳服の専門店で、なんと20年前から子連れ出勤を推奨しているんです。子連れが大丈夫なら、妊婦も大丈夫だろうと思って勇んで行き、パートタイマーとして雇ってもらいました。スタッフは自分の子どもに授乳をしながら接客するし、それが販促になる。私も、妊婦時代から着られる授乳服で接客し、出産後は娘を連れて出勤していました。
増渕:
モーハウスと出会い、キャリアを諦めずに済んだのですね。
白坂:
そうですね。私は、会社員、公務員、専業主婦、パート・アルバイト。役職ではメンバー、マネージャー、役員と、世の中にあり得るキャリアをほとんどぜんぶ体験しているんです。それが今、CHROという「人のこと(人事)を司る」 立場として糧になっています。
外に出れば自分の世界が変わるし、踏み出した一歩がキャリアになる。正解を選ぼうとするのではなく、今、選んだことを正解にしよう。目の前の人が喜ぶことに集中しよう。そうすれば道が開けると思っています。
社会課題の解決=ビジョン
増渕:
フルタイムで復帰されたのは、リクルートホールディングスですよね。
白坂:
はい、戦略企画部のソーシャルエンタープライズ推進室に入りました。当時、リクルートは上場を目指していて、事業がいかに「社会課題の解決」につながっているのかを測定し、開示につなげるということを担いました。
「社会性KPI」と呼んでいたのですが、国内の主要事業会社の社長の方々と、「社会性KPI」を設定するために議論プロセスを設計し、議論の伴走をしていました。頑張った甲斐あって、主要事業会社の8社中6社で社会性KPIの設定を実現できました。
増渕:
これまでの経験とは異なる、高難度の仕事を任されていたんですね。
白坂:
L&Mとリクルートでの仕事は一見まったく異なるようですが、「社会性KPI」は株主の言葉に置き換えたその会社が社会にあることの意味であり「ビジョン(意志)」 だと思っています。「会社を構成する一人ひとりの存在や行動が、社会の何につながり、より良くしていくのか」を考え、「ビジョン(意志)」として言葉に落とし込んで推進していくという点では近い仕事だと 感じています。
増渕:
お子さんを育てながらのお仕事は大変ではなかったですか。
白坂:
はい、それなりに大変でした(笑)。でも、L&Mもリクルートも、人を信じて仕事を任せる会社なんですよね。この人なら頑張るに違いないと、実力より大きな仕事を与えるんです。そうすると任された方は、何とか期待に応えるんだと頑張って自分を成長させていく。任せることで育つ、という考え方。育ったから任せるのとはまったく異なる。
リクルートは子どもを育てながらの社員でも、その可能性を信じて任せる懐の深い会社でした。「経営者が人を信じて任せられるかどうか」って、人の成長にも会社の成長にも大きな影響を与えるんだなと学びました。
増渕:
ありがとうございます。後編では、白坂さんがCaSyに参画するに至った理由から、お話を伺います。
<白坂さんのインタビュー記事 後編はこちら>
増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー
理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。
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