STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

マツダ・Apple・ファーストリテイリングで、事業立ち上げを担った、プロ人事の仕事とは。 ~元・アクセンチュア/武井氏(前編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十三回目となる今回は、INTERACTION PROの武井章敏さんにお話を伺いました。本記事はその前編となります。(→後編はこちら

早稲⽥⼤学卒業後、自動車メーカーマツダに入社。人事制度改革プロジェクトの立ち上げに携わる。その後、Apple Japan、ファーストリテイリングにて⼈事部⻑を歴任。2012~2020年3⽉末までアクセンチュア執⾏役員⼈事本部長として大きな事業の分岐点に関わる。現在はINTERACTION PROを立ち上げ、様々な企業の組織変革に携わっている。

ゲスト:武井章敏
株式会社 Interaction Pro 代表取締役

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
本日はよろしくおねがいします。マツダ、Apple Japan、ファーストリテイリング、そしてアクセンチュアと、名だたる企業で働いてきた武井さんが、人事として経営にどう貢献してきたか。そのあたりを中心にお伺いできたらと思います。

武井
よろしくおねがいします。可能な限りお話させて頂きますので、何でも聞いてください。

増渕:
ありがとうございます。それでは武井さんの最初のキャリアであるマツダのお話から教えていただけますでしょうか。

武井
はい。新卒でマツダに入社して1年間は営業を経験し、2年目からは研修部門で社員教育を行っていました。その後は、アジアでの本格的な生産拠点第一号となる、タイの生産工場立ち上げに携わりました。

増渕:
タイでは、どういった仕事をされていたのですか。

武井
人事・広報・総務・安全管理など様々な仕事を任されました。
アジアで仕事がしたいと思っていたのでタイで働けるのは嬉しかったのですが、営業と育成しか経験していなかったので、不安もありながら現地に向かったのを覚えています。

カルチャーの違い。ビジネスの違い。

増渕:
様々なご経験をしたと思うのですが、特に印象に残っていることはありますか。

武井
プロジェクトの初期段階から携わらせてもらったので、工場の用地選定、政府や投資委員会への工場設立許可の申請なども任せてもらえたのは印象に残っています。


他にも、建設候補地を見に行った時の光景は今でも鮮明に覚えています。地平線まで360度パイナップル畑が広がっていたんです(笑)。そういったことも含めて日本ではできない経験をさせてもらいました。

増渕:
地平線までパイナップル畑はすごいインパクトですね。工場が建ったあとは、どのような役割を担ったのですか。

武井
2年かけて工場を建設した後は、現地で2000人の採用を行いました。また採用した方々が工場まで通うためのバスの手配、就業規則や従業員代表制の整備など、全てゼロから作っていきました。

増渕:
前例のない取り組みなので、戸惑われることもあったのではないですか。

武井
工場建設のプロジェクトは、マツダとフォード・モーター・カンパニー(以下フォード)のジョイントベンチャーによるものでしたので、上司がフォード出身の外国人だったんです。そのため日本とのカルチャーの違いを感じる場面が多々ありました

例えば、日本企業的な考え方でいくと、起こりうるリスクはしっかりと検討し各所に根回しをしてから、プロジェクトを進めていくと思います。ですがフォードの社員は起こってもいないことは考えても意味がない。問題が起きたら、その時対処すればいいという考え方なんです。ですから、プロジェクトが進んでいくスピードが日本とは全然違いました。

マツダのグローバル戦略における人事戦略。

増渕:
日本にはどういったタイミングで帰って来たのですか。

武井
タイに赴任してから3年目に工場が稼働したのですが、それを見届けてから帰任しました。

増渕:
帰任してからのお仕事を教えてください。

武井
私がタイに赴任した翌年にマツダはフォードの傘下に入っていたので、帰ってきたら役員や上司の多くがフォードの人間になっていたんです。そんな職場環境の中、タイでフォードの人たちと仕事をした経験を買われて人事制度改革のプロジェクトに関わることになりました。

例えば、当時のマツダは従業員が3万人もいるのに女性管理職が一人もいませんでしたし、学歴偏重、年功序列で給与が決定するなど、典型的な日本企業的カルチャーだったんです。そこで社長のジェームス・E・ミラーさんから直々に、こういった状態についてマツダ社員がどう思っているのかを調査し、報告してほしいと依頼をされたんです。それがプロジェクトのはじまりでした。

増渕:
日本と海外のカルチャーを両方知っているからこそ、武井さんに白羽の矢が立ったのですね。どういった取り組みをされたのですか。

武井
まずテーマに沿って社員が議論をする『フォーカスグループ』をいくつか作り、そこで出てきた意見をまとめ、社長に報告をしました。その後、フォーカスグループで出てきた課題の解決のためにプロジェクトを立ち上げ、ダイバーシティの実現や学歴差別の撤廃を推進していったんです。最終的には、評価や採用方針の改定にも着手していきました。

増渕:
今後のグローバル展開を考えたうえでの、人事戦略の方針策定を主導されたわけですね。男女平等や年功序列の廃止というのは、当時の日本では先進的な取り組みだったのではないですか。

武井
そうですね。日系他社を調べましたがほとんど前例はありませんでした。いい経験をさせてもらいました。

Appleのビジネス立ち上げに携わる。

増渕:
次のキャリアとして、なぜAppleを選んだのでしょうか。

武井
Appleが日本で直営店ビジネスを始めるにあたり、銀座にAppleストアを作る計画をしていたんです。そのタイミングで友人から紹介をしてもらったのがきっかけでした。最初に話を聞いたときは、当時の日本ではAppleのシェアはかなり低かったので、正直上手くいかないだろうと思ったんです。ですが、本国からAppleの社員が来た時に想いやビジョンを聞かせてもらい、考えが一変しました。



スティーブ・ジョブスがどんなことを考えているのか。直営店ビジネスでどんなことを実現したいのか。様々な話を聞いていくうちに、これから新しいことが始まる大きな期待感を持ったんです。

増渕:
どういったお話を聞いて心が動いたのでしょうか。

武井
まずハードウェアを売るのではなく、FUN(喜び)を売るという話に惹かれました。Appleの機器を持つことでどんな豊かな生活が待っているのか。どんなエンターテイメントライフが送れるのか。そういったFUNをお客様に提供していくという話を聞いて、日本の家電量販店とは全く違いましたし、私の想像できない世界を実現していけそうな面白さを感じました。

また、すでにオープンしているカリフォルニアのAppleストアが、多くのお客様でにぎわい成功していることも知り、日本でも大きなムーブメントを起こせそうなワクワク感を感じたんです。

スティーブ・ジョブスが大切にしていたこと。

増渕:
Appleには、どういった役割で入社をされたのですか。

武井
Appleの日本の人事グループ長として、ストアの立ち上げとスタッフのマネジメントを任されていました。

増渕:
印象に残っていることはありますか。

武井
銀座のAppleストアオープンのための採用活動ですね。
ストアスタッフの候補者を100人集めたのですが、最初の10人の面接が終わったあたりで「つまらないから帰る」とアメリカ本社から来ていた面接官に言われたんです(笑)。

増渕:
それはなぜですか。

武井
私はPCの知識がある方や営業、販売の経験がある方を集めていたのですが、Appleが求めていたのはPCを売れる人ではなく、FUNを売れる人。テーマパークで働いていた人など、お客様を楽しい気持ちにできる人が採用したいターゲットだったんです。


またAppleストアには海外からも多くのお客様が来るので、アジアからヨーロッパまで多様な外国人スタッフの採用も要望されました。外国人スタッフはなかなか採用ができないので街で声をかけたり、外国人のタレントオフィスにスカウトに行ったりもしました。そこまでして、なんとか必要な人材を集められたんです。

増渕:
それはすごい経験ですね。オープン後はどういった仕事をされましたか。

武井
家電量販店の中に場所を借り、Appleのスタッフが自分たちでApple商品を販売するビジネスを立ち上げました。全国で260人の販売員を採用し、採用後のマネジメントも担当しました。

増渕:
当時、武井さんはどういったことを意識されて仕事をしていましたか。

武井
スティーブはインターナルワーク(社内のための仕事)が大嫌いです。仕事はお客様やマーケットのためにすべきであるという考えを強く持っていました。ですから、人事であっても常に自分が事業を動かす意識で仕事をしていました。

一兆円企業を目指すファーストリテイリングへ。

武井
Appleで事業の基盤が作れたので、当時一兆円企業を目指すと宣言し、ニューヨークへの出店を計画していたファーストリテイリングに入社をすることにしました。

増渕:
ファーストリテイリングでも、事業立ち上げに携わることになるわけですね。

武井
そうですね。ただ入社をしてみたらニューヨークの立ち上げ準備はほとんど終わっていたので、韓国出店を担当してほしいと言われました。

増渕:
印象に残っていることはありますか。

武井
面接の時に、なぜ一兆円を目指すのか、なぜニューヨークに出店をするのか、柳井さんにお聞きしたんです。柳井さんの回答は明確で、当時一兆円企業は国内にはTOYOTAしかなかったので、一兆円を達成できれば国内の優秀な人材を獲得できる。そしてニューヨークに出れば、グローバルで優秀な人材を集められる。優秀な人材を集められれば、次の世界が見えてくると仰っていました。この話はとても印象に残っていますね。

増渕:
柳井さんの価値基準のひとつとして、優秀な人材を集められる会社にする、というのがあったわけですね。大変興味深いお話をありがとうございます。

インタビュー後編では武井さんがアクセンチュアに移られ、HRの領域からDX推進をしていったお話を詳しく聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。

武井
はい。引き続きよろしくお願いします。

武井さんのインタビュー記事 後編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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