STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

企業存続の危機を救った、エンジニア1000名採用計画。 ~GMOグループ/菅谷氏(前編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第六回目となる今回は、GMOアドパートナーズ株式会社常務取締役の菅谷俊彦さんにお話を伺いました。
本記事はその前編となります。(→後編はこちら

教職志望だったが、社会人経験を経るべきという兄の助言を受け、大手介護・医療関連企業に入社。同社の社長室を経る中で、企業組織の中で生きる面白さに目覚め、自分の力を再確認するために、異業界であるGMOインターネットへ転職。総務部に配属後、グループ総務部長→グループ人事部長を歴任。現在はGMOアドパートナーズの社長とともに、事業再編に尽力している。

ゲスト:菅谷俊彦
GMOアドパートナーズ株式会社 常務取締役

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
本日はよろしくお願いします。

菅谷
よろしくお願いします。

増渕:
GMOインターネットグループ(以下、GMO)というと、2019年には渋谷フクラスを第二本社とされるなど、上場10社を中心とするグループ100社、社員数約6,180名(2020年12月末時点)の、日本を代表する総合インターネットグループですよね。

菅谷
ありがたいことに、おかげ様で、順調に成長を続けさせていただいております。

過払い金問題でGMO最大の危機。

増渕:
まずお伺いしたいのは、GMOの成長曲線についてです。メディアでも取り上げられたお話でもありますが、厳しい時期もあったと伺っています。本日はそのあたりから、可能な範囲でお伺いしたいです。

菅谷
はい。消費者金融事業の過払い金問題による最大の危機ですね。新聞・雑誌でもたびたび報道されたので詳細は割愛しますが、当時はかなり厳しい状況でした。

増渕:
記事には400億円の損失ともありましたが、どうやって危機を乗り越えられたのですか?

菅谷
できることをやるしかなかったというのが本音ですが、一番は「人の団結力」ですね。誰一人GMOという船を降りなかった

増渕:
経営幹部以外の方もですか?

菅谷
はい。一般のパートナー(※GMOインターネットグループでは、社員のことを「パートナー」や「仲間」と呼ぶ。)も辞めていません。パートナー、役職者、取締役それぞれ責任の範囲は違いますが、各自の役割を認識していたから厳しい時期を乗り越えられたと思います。

増渕:
なぜ役割を認識できていたのでしょう?

菅谷
おそらく、GMO代表の熊谷(以下、熊谷代表)が普段から“人”を大事にしてきたからだと思います。自由裁量でチャンスを与える姿勢をつねに企業のトップが発信しており、それが会社全体に伝播していたからこそ、企業の一大事にも混乱せず、各々がやるべきことをやろうで、走れたのだと思います。

危機の学びを、すかさず糧に。

増渕:
菅谷さんはどんな役割だったのですか?

菅谷
当時の私はグループ総務部長として、GMOインターネットの増資に奔走しました。毎朝、熊谷代表と計画を立て、実行・報告を繰り返していましたね。

増渕:
毎朝ですか?

菅谷
はい。僕以外の経営陣も同様のやり方で熊谷代表と会話し、それぞれのミッションに取り組んでいました。熊谷代表がハブとなり全体の進行状況を把握したうえで、次の計画を立てることでPDCAのスピードを上げ、何とか危機を乗り越えました。この情報共有のスタイルをGMOでは「キープアップミーティング」と呼んでいます。

増渕:
キープアップミーティングですか。これを機に言語化されたのですか?

菅谷
そうです。一つの気づきを、自分たちの中だけで終わらせず、次の世代にも残そうというのが熊谷代表の考え方。危機を乗り越える中での気づきを次の世代に残す意味で、「キープアップミーティング」は言語化され、現在は企業理念(GMOスピリットベンチャー宣言)にも刷り込まれています。

GMO復権のカギは、エンジニア

増渕:
企業存続の危機を経て、企業ポートフォリオの組み換えや強みの再定義などは行われましたか?

菅谷
原点回帰を意識しました。GMOの原点はインターネット。原点に立ち返り、インターネットに再シフトし、『情熱&テクノロジー、エンジニア比率50%』というスローガンが打ち立てられました。

当時の比率から、想定しますと、つくる人の採用計画は1,000名を積上げないと、実現しない計算となりました。「これは、大変なミッションになるな」とワクワクしたことを覚えています。

増渕:
具体的にはどのような内容ですか?

菅谷
自分たちのサービスは、自分たちでつくろう。そのためにも、エンジニアとクリエイターの比率を増やそうという動きです。「エンジニアとクリエイターはグループの宝」という言葉は、企業理念にも組み込まれています。

バラまき採用時代の逆をつく。

増渕:
総務部長として、どう関わられたのですか?

菅谷
そのタイミングでは、グループ人事部へ異動していました。
エンジニア比率が30%程だったのを50%にまで引き上げるべく、熊谷代表からミッションがきました。

増渕:
企業存続の危機においては資金調達、未来を作るフェーズでは人事。まさに会社のど真ん中をやって来られたのですね。ただ当時のエンジニア採用といえば、ちょうど採用が難しくなってきた頃ですよね?

菅谷
はい。選択肢は2つありました。1つは入社するエンジニアに報奨金や入社祝い金として、コストを投下すること。多くの企業が当時この施策を取っていましたが、わたしたちは逆をいきました。

増渕:
逆ですか?

菅谷
はい。もう一つの選択肢であった、『社内のエンジニアを輝かせることで、GMOの魅力を発信する』というプランです。求職者に配るコストをすべて社内のエンジニアに向けるべく、『GMOすごいエンジニア支援制度』を立ち上げました。

増渕:
インパクトのあるネーミングですね。具体的にはどんな施策をされたのですか?

菅谷
例えば「椅子ろうぜ!」というプログラムです。

増渕:
イスですか?

菅谷
はい、椅子です。エンジニアにアンケートを取ったところ、椅子を自分で選べることがエンジニアのモチベーションにつながることがわかりましたので、それなれば、好きな椅子を選べる仕組みを導入しました。

あとは技術を高めたいという要望から、技術関連の書籍や最新ガジェットの購入、研修・セミナーの参加費用などを補助する「学ぼうぜ!」、社内でいろんな開発にチャレンジしたいという要望から、GMOのサーバーを提供する「サバろうぜ!」という施策も取り入れました。

増渕:
けっこうな投資総額になったのではないですか?

菅谷
ずいぶん前ではっきりとした総額は覚えていませんが、椅子は一台10数万円くらいのものもありました。また、「学ぼうぜ!」に関しては、年間1人10万円程を補助していましたので、相当な金額になったのは事実です。

先行投資がもたらした、エンジニア比率約50%。

増渕:
成果はどうだったのでしょう?

菅谷
最初は、GMO=技術力というイメージがありませんでしたので、採用は、なかなか苦労しました。ようやく最近になって、システム本部の本部長から「たくさんエンジニアの中から入社いただきたい方を選考できるようになった」と、声をかけていただけるようになりました。

目標の50%には及びませんが、エンジニア比率は45.6%(2020年12月末時点)まできています。その他にわかりやすい指標でいうと、日経コンピューターという雑誌の「IT業界新卒就職人気企業ランキング」では、取り組み開始3年で99位(2012年)から16位(2015年)まで順位を上げることができました。

増渕:
メッセージをとして強く発信されたことはありますか?

菅谷
『自社サービスの自信と誇り』と『働く環境』の2つです。

増渕:
SIerなどとの差別化は難しくありませんでしたか?

菅谷
当時GMO各社は各事業領域で業界No.1を実現しており、GMOであれば「自分の学んだことを追求し、業界No.1のサービスを開発できる。さらにはサービスを育てることもできる。」というメッセージを発信しました。直接口説くため、地方も含め国公立大学、私立大学の技術系学部、技術系専門学校も訪問しました。

増渕:
複数のNo.1サービスを抱えるGMOにしか言えないメッセージですね。もう一方の働く環境に関してはどんなメッセージを発信されたのですか?

菅谷
『GMOテクノロジーブートキャンプ』という取り組みです。よく考えると、社内にはNo.1のサービスを作るエンジニアがたくさんいます。仮想化技術だったり、セキュリティーだったり、UI・UXだったり、デザインだったり、現役エンジニアが各専門科目の講師となり、新入社員に知見を共有する仕組みができれば、かなりの魅力になると思い、現場に協力をしてもらいました。

<菅谷さんのインタビュー記事 後編こちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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