STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

良質なコミュニティ作りが、これからの採用・育成の核となる ~ソフトバンク/源田氏(後編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第九回目となる今回は、ソフトバンクの源田泰之さんにお話を伺いました。
本記事はその後編となります。(→前編はこちら

1998年入社。営業を経験後、2008年より人事領域を担当。2019年HRアワード個人部門の最優秀賞、2018年プロリクルーターアワード最優秀賞などを受賞。ソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア、グループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティを立ち上げ、社内起業制度であるソフトバンクイノベンチャーでは選出されたアイデアの事業化を推進し複数社の設立を支援。2018年からディープラーニングのインキュベーション及び投資事業を行うDEEPCOREのHR Advisorも務め、2021年より、エンジニアリングとオペレーションで変革を支えるSBエンジニアリングと、人事サービスを提供するSBアットワークの取締役も務める。また、高い志と異能を持つ若手人材支援を行う孫正義育英財団の事務局長も兼務。

ゲスト:源田泰之
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事本部 本部長

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
引き続きよろしくお願いします。

前編では、ソフトバンクの採用についてお話いただきました。
データを計測して、PDCAをまわして、学生視点でマーケティングするという3つの柱。源田さんは何でもないことのようにお話されていましたが、多くの企業が自覚しながらもやりきれていないことだと感じました。

後編では、そんな源田さんのキャリアの変遷についてお聞きできればと思います。採用に関わり始めたのは直近6年ほどだと伺いましたが、それ以前はどんなご経験をされてきたんですか?ファーストキャリアから順番にお聞かせいただきたいです。

地元で就職したいと考える、平凡な大学生だった。

源田
大学卒業後は、Jフォンという携帯キャリアの会社に入社しました。

増渕:
最初はJフォンだったんですね。

源田
そうなんですよ。Jフォンがボーダフォンに買収されて、ボーダフォン(日本法人)がソフトバンクに買収されて、という変遷で現在に至ります。

私が就職活動をしていた頃は、ポケベルがあってPHSが出てきて、次に携帯電話が普及し始める黎明期でした。あと、正直に言うと、私は九州出身だったので、住み慣れた地元で就職できる企業が良くて選んだのもあります。

増渕:
源田さんが地元志向の学生だったというのは意外ですね。

源田
意思が無かったというか、何にも考えてなかったですから(笑)

転機は、営業職からスタッフ育成職への異動。

増渕:
かつて地元志向の若者だった源田さんが、いまはソフトバンクの人事を統括するお立場になっています。ご自身のキャリアにおいて、何かターニングポイントがあったのではないでしょうか。

源田
最初の転機は、ソフトバンクになってからの話ですけれども、東京に転勤になったことですね。それまでは法人や代理店向けの営業職に就いていましたが、転勤にともない販売スタッフの育成部門に異動になりました。

増渕:
ここで少し人事のお仕事に近づいたわけですね。

源田
当時、営業で成果が出せていた自負もあって、多少、反発もしながらの異動ではあったのですが、やってみると意外と面白かったのを覚えています。これまでよりたくさんの人に会えるし、営業職よりも直接的に感謝される機会が多かった。販売スタッフの能力や特性に個人差があるなかで、どうすれば早期に活躍できる人材に育てられるかを考えるのも興味深かったです。

増渕:
スタッフ育成のお仕事は何年くらい続けられたんですか?

源田
2~3年くらいです。その後、全社の研修を担う部署に異動になりました。

社員教育の基礎となる、社内認定講師制度の立ち上げ。

増渕:
全社の研修というと、具体的にどんなお仕事をされていたのですか?

源田
そうですね。トピックスで言えば、社内認定講師制度を立ち上げたことでしょうか。当時から12年くらい続いている制度になります。

それまで社外の著名な講師陣を招聘して行っていた社員研修を内製化しました。研修の内製化により、自社にカスタマイズされた実践的な教育が可能になったのと、講師を務める社員のモチベーションやスキルアップにもつながったこと、それにコスト削減にもなって一石三鳥の施策となりました。

あと、対外的に知名度のある施策で言えば、ソフトバンクアカデミアの立ち上げにも関わらせていただきました。こちらもずっと続いている取り組みで、2020年に10周年を迎えました。

1万人が殺到。エントリー希望者全員と、面接をセッティング。

増渕:
アカデミアに源田さんも関わられていたんですね。孫さんの後継者の発掘・育成ということで、当時かなり話題になった記憶があります。孫さん直下のプロジェクトともなると、求められる対応レベルが、これまでの施策よりも高くなるんじゃないですか?

源田
おっしゃる通りですね。当時、第一回の募集には1万件以上の応募が集まったのですが、孫正義から言われたのは、せっかくご応募いただいた方に失礼があってはいけないから、希望者全員と面接するように、ということで――

増渕:
えっ!1万人と面接ですか?それは相当大変ですね…。

源田
正確には希望者だけなので数千人でしたが、それでも数が多いので、本社の上位役職者が総出で対応しました。各所に協力をお願いして1ヶ月から2ヶ月弱くらいかかったと思います。あれは本当に苦労しましたね。

ただ、アカデミア自体の反響はものすごくて、応募者は、社会人経験の全然ない方から、有名な企業の経営層の方まで幅広く、実に多様でした。

孫正義氏との対話で培った、枠に捉われない思考法。

増渕:
面接だけでもその大変さだとすると、アカデミアのプログラム作成は、さらにご苦労が多そうですね。

源田
検討初期には、MBAプログラムのようなアイデアも出たものの、すべてボツになりました。求められていたのは、より実践的で、帝王学的なものを多くの方に学んでもらえるようなプログラムでした。

最終的には、孫正義がソフトバンクの経営において課題に感じていることをお題として提示して、その解決策を参加者にプレゼンしてもらうというスタイルに落ち着きました。

増渕:
その話は、孫さんと実際に会話しながら決めていったんですか?

源田
はい。最初は当時の上司がやりとりしていましたが、途中から私に任せていただいて直接話すようになりました。

増渕:
ちなみに、孫さんとのミーティングってどんな感じなのでしょう。どんな印象を持たれているのか、話せる範囲で構いませんので教えていただきたいです。

源田
話していて感じるのは、枠にとらわれない人だということですね。普通の人は、何か考えるときに、過去の経験や世の中のしがらみ、物理的にできるかどうかなど、色んな前提条件が意思決定の邪魔をすると思いますが、そういう固定観念に一切とらわれないんです。

だから、最初の頃は、途中で一瞬何の話をしているのか理解できなくなることがありました。本人からしたら、飛躍した話をしているつもりは全然なかったと思います。

増渕:
孫さんとは、いまも定期的に話す機会はあるんですか?

源田
だいたい月に1~2回ほどは話しています。昔の自分だったら受けとめきれないような案件ばかりですが、いまはだいたい大丈夫ですね。この10年で、ずいぶん鍛えられたのだと思います。

「コミュニティの価値」を認識できた原体験。

増渕:
アカデミアに参加された方はもちろんですが、源田さんにとっても孫さんとのセッションは、相当な刺激になったんですね。

源田
もちろん孫正義という存在の大きさはあります。これはもう間違いないと思います。

ただ、それ以上に価値があるのは、アカデミアのプロジェクトを通じて、全国から優秀な人が集まってきて、一つのコミュニティが作れたことだと思っています。

参加者の方と話すと、アカデミアへの入校のきっかけは孫正義なんですが、結果的に、参加して何が良かったかと聞くと、様々な分野の優秀な人と出会えて、そこで議論が深まって、自身の価値観がアップデートされたり、成長につながったりしたという声が圧倒的に多いんです。

コミュニティのなかで議論し、思考を深めるステップが、人材の成長に不可欠だと気づけたのは、私にとって財産でした。前編でお話した、TURE-TECHの企画も、コミュニティをどう作るか、という視点が企画の根底にあります。

対話の機会は、意識して行動しなければ作れない。

増渕:
ありがとうございます。
最後に、若手の人事の方にアドバイスをいただければと思うのですが、いかがでしょうか。

源田
そうですね…、強いて言うなら、できるだけたくさんの人に会うことでしょうか。

人に会いましょうと言いながら、実は、私もそんなに社交的な人間ではなかったんです。ただ、あるとき上司に誘われて、様々な企業の人事が集まる会合に参加しました。30人くらいの集まりだったと思います。

そのときに、他社の人事の人たちが話している内容が全然理解できないし、周りは知り合い同士で自分だけ初対面だし…。帰り道、上司に「楽しかった?」と質問されて、「いえ、あんまり楽しくなかったです」と、正直に話したら「最初はそんなもんだよ。これを5年くらい続けたら人生変わるんだよ」って言われまして。

増渕:
そういう話ってよく聞きますけど、実際はなかなかできませんよね。

源田
ですよね。でも、私は、大真面目にやったんですよ(笑)

増渕:
えっ、本当にやったんですか!?

源田
はい。もうとにかく誘いを断らず、色んな集まりに顔を出し続けました。最終的には、最初に参加して「面白くなかったです」と話したのと同じ会で、幹事を務めるくらい顔が広くなりました。

増渕:
とは言え、ただ上司に言われたから、というだけの理由だったら続きませんよね。やはり、源田さんご自身がいち参加者として、コミュニティに参加する価値をご実感されていたのでしょうか。

源田
おっしゃる通りですね。私は人の成長に必要なのは内省と対話だと思っています。そして、内省は一人でもできますが、対話は意識して場を作らないとできません。少なくとも、いまの私があるのは、お会いした方々に教えていただいたことを、自分なりに活かしてこれたからだと思っています。

増渕:
ソフトバンクという巨大なコミュニティが源田さんを育て、その源田さんが、コミュニティの持つ力と対話による学びを、組織のなかでいかに再現性高く実現していくか、いま試行錯誤されていて…。

改めて、ソフトバンクという組織の強さの一端を垣間見られたような時間でした。源田さん、本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

源田
こちらこそありがとうございました。

源田さんのインタビュー記事 前編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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