経営目線だからわかる。経営陣から現場社員まで、社内の協力を勝ち取る人事とは? ~GMOグループ/菅谷氏(後編)~
経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第六回目となる今回は、GMOアドパートナーズ株式会社常務取締役の菅谷俊彦さんにお話を伺いました。
本記事は後編となります。(→前編はこちら)
教職志望だったが、社会人経験を経るべきという兄の助言を受け、大手介護・医療関連企業に入社。同社の社長室を経る中で、企業組織の中で生きる面白さに目覚め、自分の力を再確認するために、異業界であるGMOインターネットへ転職。総務部に配属後、グループ総務部長→グループ人事部長を歴任。現在はGMOアドパートナーズの社長とともに、事業再編に尽力している。
2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。
現場が会いたい学生との接点をつくる。
増渕:
現場から反対の声はなかったのですか?
菅谷:
一切ありませんでした。もちろんしっかり現場の方々とお話させていただきました。
増渕:
現場を巻き込むのが難しいと各社の採用担当者様からご相談いただきますが、どうアプローチされたのでしょうか。
菅谷:
自分たちが働く仲間は自分たちで採ろうという社風だったこともありますが、人事部として一番に心がけたのは、「現場の方々が会いたい人に会ってもらうための努力を見せた」ことだと思います。
増渕:
具体的にはどういう努力ですか?
菅谷:
会津大学との出会いは、わかりやすい例ですね。会津大学は、日本で初めてのコンピュータ理工学専門大学として開設され、社内のエンジニアたちも注目していました。会津大学出身の学生さんと働きたいという社員の気持ちを実現するために、人事ができることは、大学や学生と接点をつくること。面識はありませんでしたが、根気強くご連絡させていただき、会話をするチャンスをいただきました。
増渕:
積極的ですね。
菅谷:
自分たちの努力を見せずに、社内の協力を仰ぐのは違うと思っています。まずは人事から行動を起こす。現場を想って人事がどう活動をしているのかが伝われば、現場も応えてくれます。
増渕:
すばらしいメッセージをありがとうございます。
菅谷:
エンジニアの採用市場は厳しいですからね。僕ら人事にできることがあれば何でもやります。福岡の専門学校との接点をつくった際には、校章をデザインしたお饅頭をつくり、持って行ったこともありますよ(笑)。
これをご縁に、いろいろ取組ませていただいた結果、学内説明会の初回担当企業として、お声をかけていただくようになりました。
個人の都合は、なんの説得材料にもならない。
増渕:
同様に、経営陣を巻き込むという点でのご質問も多いのですが、こちらはいかがでしょう?
菅谷:
経営陣を巻き込むという点で考えるのであれば、『自分たちの都合を主張しないこと』が大事ですね。少し話は変わりますが、新たに採用管理システムを導入したいと考える採用担当者がいたとします。ここで経営陣にどうプレゼンするかという話です。「導入すれば業務効率が上がって月の業務量のうち3時間コストを節約できます。」こんな風に言ってしまうとダメですね。
増渕:
なるほど、なるほど。どうプレゼンすべきでしょう?
菅谷:
プレゼンの視点を経営陣にとってのメリットに変えるのです。経営陣の目線に立って考えると、細かな業務時間の削減という言葉も大切ですが、ポイントは、削減した時間で新サービスの企画をする、もしくはサービスを向上させて新たな仲間を増やすなど、経営陣にとって、その先にあるメリットを伝えるプレゼンをすることが重要です。
僕は決裁を下す影響力の強い人のことを「スポンサー」と呼んでいて、プレゼンについて、会話をする際は「スポンサーは誰なの?その人へのメリットって何?」という会話をよくします。
増渕:
スポンサーというのは、面白い表現ですね。一番ハードルの高い決裁をまず通して、詳細設計に関しては現場でやってしまうということですね。
評価制度の統一から、企業を一つに。
増渕:
現在所属されているGMOアドパートナーズではどんな役割を担ってらっしゃいますか?
菅谷:
社会人最初のキャリアと同じ秘書のような役割です。20代は秘書、30代は総務、40代は人事を経験し、50歳手前でGMOアドパートナーズに移籍となりました。
当時のGMOアドパートナーズは、業界No.1の冠を手にすることができておらず、No.1を奪取すべく社長の橋口(以下、橋口社長)とともに、熊谷代表の命を受けました。
増渕:
いよいよ経営TOPの右腕として移籍したわけですね。最初はどんな依頼を受けたのですか?
菅谷:
橋口社長の狙いは、“GMOアドパートナーズを一つにしたい“というものでした。当時のGMOアドパートナーズは合併等によって企業規模が大きくなったものの、制度や意識統一が図れていませんでした。
増渕:
事業再編ですか。菅谷さんにとって新たな挑戦というわけですね。
菅谷:
はい。まずは5年後くらいまでのロードマップを描きました。最初に人事制度の共通化を図り、グループ間の異動を可能にしました。その後は、増渕さんにご協力いただき「ともにつくろう」というCI(コーポレートアイデンティティ)を作りました。そこから社内報を作って、Uniposやwevoxを導入して、会社を一つにしている真っ最中です。
増渕:
CIに関しては本当に前のめりにご参加いただきありがとうございました。菅谷さんといえど事業再編は初めてだったと思います。着任時点である程度ロードマップは描かれていたのですか?
菅谷:
イメージしていましたが、ツールなどの具体的な部分は見えていませんでした。橋口社長の中には、ロードマップがありましたので、二人でディスカッションを繰り返し、解像度を上げていきました。
自らの気づきを、次の世代につなげたい。
増渕:
菅谷さんは自分を何屋だと位置づけされていますか?
菅谷:
トップがやりたいことを実現するお手伝いをするという役割でしょうかね。私は熊谷代表や橋口社長のように、前に立って企業を率いる器ではありませんし、あまり興味がありません。ましてや、総務や人事の経験もありませんので、職種にも、こだわりはありません。
どちらかというと、『トップマネジメントの意志を具現化する力』に長けていると自負していますので、想いを具現化するために考える裏方として、今後も、熊谷代表や橋口社長を支えて行くことが自分の宿命だと思っています。
増渕:
私からすると、『夢を具現化するサポーター』という気がします。まさにスポンサーである、企業のトップの想いをカタチにするサポーターです。
菅谷:
ありがとうございます。うれしいです。私が何かを叶えるよりも、熊谷代表や橋口社長が叶える方が嬉しいです。
増渕:
企業のトップからすれば、最高のパートナーですね。ちなみに菅谷さん、今後の夢はおありですか?
菅谷:
やりたいことは二つあります。一つは、橋口社長の描く未来のGMOアドパートナーズの具現化です。新たな取り組みとしてUniposやwevoxなどで抽出したデータをどうDXに結び付け、人財の活性化や、働く環境の向上に取り組み始めています。もう一つ個人としては、今、自分にある知識を、次の世代に伝えたいと思っています。
増渕:
すでに何か取り組まれていることはありますか?
菅谷:
はい。マネージャークラスのパートナーから提案書のレビューを頼まれることが多いのですが、提案書の内容よりも『モノの進め方』をアドバイスするようにしています。
増渕:
モノの進め方ですか?
菅谷:
はい。考え方、モノの進め方、仕事の進め方など、パートナーが一人になったときにも活かせることを意識して、次世代の幹部候補となるパートナーの方々とコミュニケーションを取っています。
彼らがちょうど34~35歳。私が熊谷代表と出会い、熊谷代表のもとで学びはじめた年齢です。私は、熊谷代表には、到底およびませんが、教えていただいたことは、これからを担う幹部候補のみなさんには伝承しようと、日々会話をしています。
目の前の“人”と向きあうことが、一番の近道。
増渕:
最後に1つだけ。採用に携わられているすべての方へメッセージをいただけますか。
菅谷:
そうですね。今日は施策の話が多かったですが、一番大切なのは「組織がどうあるべきかを話し合うこと」です。組織が活性化しないから研修・ツールを導入するのではなく、その前に、どうありたいかの目線合わせを社内で行うことが、大事だと思っています。
増渕:
本当にその通りですね。
菅谷:
よく他の会社の方から、「うちの会社は方針がない」といった話を聞きますが、私からすると、方針がないならラッキーだと思っています。「方針がない」ことに嘆いているくらいなら、さっさと部署の仲間とわいわい話しながら、自分たちの部署の方針を決めて動けばいいわけですから。
今の時代、すぐ結果を求められることが多いですが、答えを急ぎすぎて見えなくなることも多いです。目的を見定め、大なり小なりまず会話をすること。ここに関しては、どの企業にも言えることだと思っています。
増渕:
ありがとうございます。本日は長時間にわたり、本当にありがとうございました。
菅谷:
こちらこそありがとうございました。
<菅谷さんのインタビュー記事 前編はこちら>
増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー
理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。
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