人材の価値を引き出す経営。人事のプロが経営に関わることの意義。 ~デジタルホールディングス/石綿氏(後編)~
経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第十ニ回目となる今回は、デジタルホールディングスの石綿純さんにお話を伺いました。本記事はその後編となります。(→前編はこちら)
新卒で株式会社リクルートに入社。人材メディア領域の営業部門から人事部門へ。グループ人事部長、株式会社スタッフサービス・ホールディングス事業開発部長を経て、株式会社光通信人事担当役員に就任。2018年にオプトホールディングへ入社、グループCHROとして人事部門を統括。
株式会社オプト 取締役CHRO
2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。
増渕:
前編に引き続きよろしくお願いします。
石綿さんは、リクルートで営業、人事を経験して、グループ企業で経営に関わるご経験も積まれました。そして次のキャリアとして光通信という、リクルートとはまったく違った考え方の組織に入ることになります。
人材という経営資源をどう捉えるか?
増渕:
光通信でのご経験は、リクルート時代と比べてどんな違いがありましたか。
石綿:
まず、リクルートは人材の力で勝つ組織なんですよ。だから採用にはものすごく力を入れるし、採用が良いと業績も伸びると考える会社だった。一方で、光通信は真逆の組織。ビジネスモデルで勝つ会社。
一番極端だったのは、面接に対する考え方です。リクルートでは考えられないと思うけど、光通信は、面接はコストの一つ。出来るだけ効率良く進める。やる気のある人はみんな採用すればいいと。利益の出る仕組みはしっかりあるから、その仕組みに乗って、成果を出せる人にとっては居心地良いし、ダメな人は退職していくだろうと。極端でしょ。
増渕:
本当に真逆ですね。でも、そういう環境だからこそ経験できたこともあるんじゃないですか。
石綿:
光通信という会社は、部長以上になろうとすると、自分の力で会社を買ってこれるくらいの人脈や眼力が求められるんですよ。事業に対していくらお金を投じて、いくら収益があがるかという、経営における投資の考え方を学べたのは財産になりました。
増渕:
石綿さんの期待通り、リクルートではできなかった経験ができたんですね。
石綿:
それは間違いないね。財務戦略の一環として、子会社を立ち上げたり、本社の人事機能をアウトソースできる体制を整えたり。良いサービスと優秀な人材さえそろえば収益がでるという発想とはまったく違う、投資の側面から見た会社経営を学んだ3年間でした。
社名が変わると、エントリー学生の質も変わった。
増渕:
いよいよ、いま在籍されているデジタルホールディングスにCHROとして参画するわけですが、このタイミングで独立を考えたりはしませんでしたか。
石綿:
人材の仕事をずっとやってきたから、人材関連のビジネスであれば独立してもやっていけるとは思いました。でも、自分一人でできる範囲は限られていますから。もっと社会に対して影響力を与えられる選択はないかと考えて、デジタルホールディングスに入ると決めました。
増渕:
入るときには、どんなミッションを提示されたのですか。
石綿:
現経営陣に、リクルートのような人材輩出企業になりたいという想いがまず前提としてあって。それを実現するために、次世代の経営人材の育成や成果に応じて給与を変動させられる報酬制度を作ることなど、全部で20個くらいのミッションがありました。
増渕:
けっこう課題が多いですね。
石綿:
そもそも私がジョインしたときは、デジタルホールディングスではなく、オプトホールディングスという社名でした。これはグループの中核企業である、インターネット広告代理店の株式会社オプトの名前を冠していたわけです。
増渕:
社名変更と、さきほど教えていただいた、石綿さんのミッションとは関連があるんですか。
石綿:
オプトというブランドは、良くも悪くもインターネット広告のイメージが非常に強くて。新卒採用にエントリーしてくれるのが、広告に興味のある人ばかりになっていました。
増渕:
あぁそういうことですね。
石綿:
昔はそれで良かったんです。しかし、いま我々が取り組みたいのはDXとかIX(インダストリアルトランスフォーメーション)の領域です。ネット広告といういち手法ではなくて、もっと広い領域で価値提供していきたい志向の人材が必要になっています。それで社名変更して、採用もホールディングスでの一括採用に切り替えました。
増渕:
なるほど。それだと企業規模も大きくなるので採用力もあがるし、ネット広告代理店のイメージも変えることができますね。やはりエントリーしてくれる人材の質は変わりましたか?
石綿:
一変しましたね。以前は大手の広告代理店などが採用競合でしたが、いまは各プラットフォーマーだったり、IT企業に変化してきました。
ビジネスモデルが、人材に与える影響。
石綿:
いまは社内に向けて、ITの力で産業を変革するようなビジネスモデルを作って欲しいとメッセージ発信していて、社員の視座も随分変わりました。
増渕:
どんな変化があったんですか。
石綿:
簡単に言えば、広告代理店をやっていると、考え方がクライアント寄りになっていくんですよ。
増渕:
私も代理店で働いていた経験があるので何となくわかります。顧客第一主義というか。
石綿:
そう、顧客第一主義。ビジネス的には正しいのだけど、行き過ぎると組織が内向きになる弊害もある。世の中がどうあれ、目の前のお客様がこうして欲しい、ああして欲しいと要望したら、それを全力で叶えるのが善しとされてしまいます。本質的なサービスからそれた仕事になりやすい側面がある。
それにネット広告というのは、GoogleやMeta(フェイスブック)などプラットフォーマーが作った仕組みです。プラットフォーマーの立場は非常に強い。代理店は営業利益にすると数%の世界で商売をすることになるから競争のなかでジリ貧になっていく。自分たちの商材を持っていないのは、ビジネスとして非常に厳しいですよ。
増渕:
なるほど。
石綿:
そんな環境のなかで、でも社員たちは顧客第一で頑張るわけですよね。そうすると、厳しい環境で生き残った人たちの集団になっていくから、組織はどんどん同質化していきます。同質の人が集まっても化学反応が起きないから、イノベーションも起こりにくくなる。
増渕:
悪循環ですね。
石綿:
そう。だから私たちは、自分たちのビジネスモデルを作ることにしたんです。たとえば、薬剤師の仕事を効率化するための仕組みを作ったり、産業廃棄物の物流を効率化する仕組みを作ったり。これまでアナログで非効率だったところをIT化して、その業界で働く人がよりコア業務に専念できるようにする。結果、業界で働く人の価値が向上できる。そういう世界を目指しています。
増渕:
インターネット広告が柱だったオプトが、デジタルホールディングスに社名変更してDX領域に進出する。大胆な戦略の転換ですね。規模の大きな企業がこれだけの意思決定をするのは相当難しいと感じます。
石綿:
実はオプトは、インターネット広告がまだ見向きもされなかった黎明期に、いち早く取り扱いを始めた会社でもあるんです。いまでは考えられないですが、ネット広告なんてもの誰がやるんだという時代があったんです。だから、新しいことに挑戦するのは、もともと得意な企業風土なんだと思います。
コロナを機に、テレワークが当たり前の組織に。
増渕:
石綿さんのお話を伺って思いますが、企業の転換期に直面する経験に恵まれていますよね。リクルートはダイエーに買収されて、分社化するところまで在籍されていて。いまデジタルホールディングスで、第三の創業期とも言える大転換期にCHROとして携わられています。
石綿:
そうですよね。いまだとコロナもありますしね。
増渕:
デジタルホールディングスはIT関連の会社なので、特性的にテレワークへの対応はやりやすそうに思います。いかがですか。
石綿:
もともと社員にパソコンやスマホを貸与していたこともあって、すんなりテレワークに移行できました。いまではテレワークが定着したので、オフィスも6フロア借りていたのを3フロアに縮小しています。
増渕:
ということは、今後もテレワークは標準で実施されていくんですか。
石綿:
今回の一件で、前々からワークライフバランスと言われていましたが、完全にワークインライフの世界になりました。仕事と生活が一緒になってしまった。
毎日出社する働き方に戻るのは逆に難しいのかもしれません。部署によっても差はありますが、現在は週2日出社、3日テレワークという運用に落ち着いています。
増渕:
テレワークが増えても問題はないですか。
石綿:
新入社員のオンボーディングの工夫やメンタルケアなど、いくつか打ち手は必要です。ただ、社員の多くは働きやすいと歓迎してくれているので、この選択肢のある働き方を磨いていければと思います。
人材と企業の関係は、限りなくフラットに近づいていく。
増渕:
テレワークが増えると社員の帰属意識が薄れる、といった意見もありますがいかがですか。
石綿:
テレワークのあるなしに関わらず、今後、個人と企業の関係はどんどんフラットになっていくでしょうね。だから一か所に集まって働かなくても、デジタルという会社がハブになって、優秀な人同士をつなげて価値を生み出していくような世界観を作らないといけない。長期で見ると、企業は優秀な人材から選ばれる場所であり、社会の役に立つ存在であらねば存続ができない。
増渕:
社会の役に立つ。最近のSDGsやESGというキーワードもそこにつながってくるんですね。
石綿:
短期の成長だけなら目先の利益を考えたらそれでいいのかもしれません。でも、世の中に認めていただいて、成長し続ける会社になりたければ、長期スパンで考える胆力が必要です。最近、副業も全面解禁しましたが、これもテレワークと同じで正解かどうかはまだわかりません。分からないけどトライしてみて、ダメだったら修正していくしかない。
増渕:
今後、デジタルホールディングスで、石綿さんが実現していきたいビジョンのようなものはありますか。
石綿:
冒頭で、リクルートは人の力、光通信はビジネスモデルの力という対比の表現をしました。しかし、究極的にはその両方を備えた企業が一番強いのだと思います。私がリクルート時代に採用支援をさせていただいたファーストリテイリングは、素晴らしい製造小売のビジネスモデルを備えながら、核となる店長などの人材育成にも非常に力を入れている企業でした。
増渕:
会長の柳井さんとの出会いは、人事としてのターニングポイントになったご経験だとおっしゃっていましたね。
石綿:
人材と経営、どちらも一流でなければ世界と渡り合うことはできません。私は、デジタルホールディングスならば、それが実現できると信じています。
<石綿さんのインタビュー記事 前編はこちら>
増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー
理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。
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