STRUCT REPORT
V字回復の採用戦略

結果を出し続ける人事は「経営者」視点をもっている。 ~CBcloud/翠氏(後編)~

増渕知行

経営の危機に人事が価値提供できることとは何か。
ジャンプ株式会社の代表・増渕が、プロ人事の方に、当時の状況や心情、取り組んだ施策などをお伺いするインタビュー企画「V字回復の採用戦略」。
第七回目となる今回は、CBcloud株式会社 取締役の翠勇樹さんにお話を伺いました。
本記事はその後編となります。(→前編はこちら

大学卒業後、株式会社リクルートスタッフィングに入社。人材コンサルティング会社を経て、2010年、株式会社じげんに参画。人事・広報機能を立ち上げ、東証一部上場までの成長を牽引。2017年に執行役員兼CHROに就任。その他、新規事業会社やM&Aした子会社などの社長を歴任。2019年、CBcloud株式会社に参画。執行役員など要職を経て2020年7月、取締役に就任。

ゲスト:翠勇樹
CBcloud株式会社 取締役

2008年、ジャンプ株式会社を設立。「働きたくなる会社を日本中に」をミッションに、採用力強化に特化した事業を展開。20年以上の採用コンサル経験をもとに、事業を伸ばす採用戦略フレームワーク「STRUCT」を開発。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」を立ち上げ、主宰として指導にあたる。

インタビュアー:増渕知行
ジャンプ株式会社 代表取締役

増渕:
前編から引き続きよろしくお願いします。


よろしくお願いします。

増渕:
翠さんは、2010年に当時まだスタートアップ期だった株式会社じげんに参画。ゼロから組織作りに携わり、マーケティング発想で優秀な新卒学生を次々に採用成功。事業成長に貢献されました。

人事施策は、選択と集中“しない”方が上手くいく。

増渕:
ここまでお話を伺って、翠さんの発想はミクロとマクロの距離感が絶妙で多面的だと思いました。現場と経営、二つの視点を上手に使い分けている気がします。


多面的というのはそうかもしれないですね。課題があったときに、常に打ち手は複数考えるようにしています。採用なら何ができるか、育成なら、制度なら、組織開発ならと。引き出しをできるだけ多くもっておいて、効果の高いところから着手するように意識しています。

仮に採用の観点でしか解決策を考えられなければ、退職者の数を上回る新規採用をするしかなくなります。それだと短期的にはしのげても、長期的には組織に悪影響が出ます。

コンスタントに成果を出し続けるためには、選択と集中ではなく、常に3~4個の打ち手を用意して、同時並行で進める必要があります。複数の手を打っておけば、1つでも当たれば成功。複数当たれば大成功になるので、成果を最大化できます。

人事と経営を一体にできた原体験。

増渕:
翠さんは、じげん在籍中に子会社の経営にも携わられていました。経営者を経験したからこそ、得られたものはありましたか。


事業の現場や経営の苦労を理解した上で、人事に携われるようになったのは大きいです。自ら経営の当事者を経験したことで、経営者の気持ちに寄り添えるようになりました。経営者の想いに共感できると事業理解もより深まりますし、支援したい気持ちも強くなります。

当時の私は、経営者としてはまだ駆け出しの素人でした。そんな自分がどうやって成果を挙げるか悩んだ末にたどり着いたのが、得意領域である組織作りや人材作りを武器にした事業成長のあり方でした。

増渕:
なるほど。人事視点で経営者をやったんですね!


人事に携わる方であれば、どなたも当たり前に人材の大切さを語ると思います。でも、人や組織の力を引き出すことが本当に事業の原動力になると、実体験を持って言い切れる方は少ないのではないでしょうか。人事という武器を使って経営を伸ばせた成功体験は、私にとって財産になっています。

40歳を区切りに、次のステージへ。

増渕:
ここまで、ご苦労もあったと思いますが、総じて順風満帆なキャリアだったと思います。そんな中、2019年にじげんを離れて新しい挑戦をされていますよね。どんな心境の変化があったんですか。


40歳という年齢が、ひとつの区切りになりました。これまでの経験を活かして、体力的にもまだ無理がきくこのタイミングで、もう一度大きなチャンレンジをしたかったんです。自身のキャリアの集大成となる、ビジネス人生で最高の仕事をしたい。そんな想いで決心をしました。

増渕:
それで、挑戦先として選んだのがCBcloudだったんですね。


CBcloudのビジョンは“「届けてくれる」にもっと価値を”。ITの力を使って、ドライバーの社会的地位や届けることの価値を向上する、という志に共感しました。ネット通販の便利さを支えているのも物流ですし、震災のときに商品が不足したのも物流が途絶えたからです。

CBcloudなら、社会課題となっている「物流クライシス」「再配達問題」などを解決し、未来のインフラ創りを実現できるのではないか、ビジネス人生をかけた社会への貢献ができるのではないかと考えました。

組織課題に応えていくと、自ずと人事の枠をはみ出していく。

増渕:
事業内容への共感もそうですが、CBcloudの松本代表との相性も良かったのでしょうね。


そこはもちろんそうですね。経営者として尊敬できて、人材観が合うことが決め手になりました。この人となら事業を成功させられると素直に思えました。

増渕:
すでにサービスが地上波の経済番組で紹介されるなど、注目度も高く、順調に成長・拡大されています。


私が入社したときは40名くらいの組織で、そこから1年半で非正規含め150名以上に増えたので、そうですね。急激に人材が増加する中で、組織マネジメントや人材育成の体制を整備していっているところです。

増渕:
翠さんは、いまは取締役でしたよね。


はい。最初は人事や広報を中心に見ていたのですが、現場の課題にスピード感をもって対処しようとすると、やはり人事の枠を超えざるを得ません。採用だけでは事業成長のスピードに追いつかなくてアウトソーシングも使いましたし、ビジネスプロセスの改善で業務の効率化・省人化も行いました。

ありがたいことに、自分の業務範囲にとらわれず色んな挑戦をさせていただくなかで、事業責任者、執行役員、取締役と役割が移り変わっていきました。

経営レベルから人事レベルまで、複数レイヤーで施策を重ねる。

増渕:
CBcloudでは、集大成となる仕事をしたいと話されていましたが、これまでの経験は活きていますか?


たとえば、組織が急拡大する過程で、人材の定着や理念への共感が課題になると予測できたため、ミッション・ビジョン・バリューを、より社内浸透しやすいものにリニューアルしました。私のほうでリニューアル骨子を作り、役員陣を交えて半年ほどディスカッションを重ねて再定義しました。

他にも、従業員のスキルアップを応援するCB Budget(イベント・勉強会・書籍購入費用の負担制度)や社内コミュニケーションを活性化させるためのCB Reward(ピアボーナス制度)のような福利厚生を整えたり、より働きやすい環境にするためにオフィス移転をしたりするなど、社員のエンゲージメントを高めるための施策を多方面から実施しています。

目標を定めた上で、経営レベルから人事レベルに至るまで幅広い打ち手を講じることで、人事施策に一貫性が生まれます。

あと、新しい取り組みとして、CBcloudでは事業成長をさらに加速させるために、社内だけでなく社外人材の活用にも挑戦しました。

増渕:
社外人材の活用に取り組む企業は、少しずつ増えてきている印象があります。具体的にはどんな形で実施されたんですか?


社外の優秀な人材に参画していただくために、Project ABC(Advisory Board of CBcloud)というパートナーシップ制度を新設しました。私たちの目指す世界観に共感してくださった各分野のエキスパートの方に、業務委託という形で戦略的アドバイスをいただいたり、案件によってはハンズオンでプロジェクトに参加していただく仕組みです。

増渕:
リニューアルしたミッション・ビジョン・バリューは、社外人材とつながるための共通言語としても機能しているんですね。

与えられた採用目標をこなすだけでは、成長できない。

増渕:
最後に人事の方にメッセージをお願いしたいのですが、翠さんとしては、これから人事としてどんな力を高めていくことが必要だと思われますか?


一番大事なのは、現場と経営、両方の立場を理解して全体最適で考えられることだと思います。もしもいま、上から採用人数の目標が降りてきて、その数値を追いかけるだけになっている方がいたとしたら、もったいないと思います。

なぜその人数が必要なのか。組織にとって、どんな人材がベストなのか。「自分が事業責任者や経営者なら…」という観点を自分のなかに持って、業務領域にとらわれない発想をできるように訓練することが大切です。

私自身、何度か転職しましたし、企業からオファーをいただくこともありますが、そのとき評価されるのは事業運営や経営の経験です。世の中的に「人事しかできない人材は必要ない」という企業が、多くなっているのを肌で感じます。

経営視点を持つには、人事を辞める覚悟が必要!?

増渕:
これは極論かもしれませんが、翠さんの体現されている人事像を目指すとなると、人事以外の職種も経験したほうが良いように思います。成長を志向するのであれば、他の職種に転職するなど、何らかのリスクテイクは必要になるということでしょうか。


いえ、必ずしも辞める必要はないと思います。大事なのは、自分自身の距離の置き方です。積極的に現場に近づいて話を聞いたり、経営陣と対話して事業理解を深めたりするだけでも、視界はまったく変わってくるのではないでしょうか。

いまは副業もやりやすくなっていますから、外部の何らかの事業活動に参加するのも一つの手です。人事のキャリアを断絶しなくても、パラレルなキャリア形成を志向していけば自ずと経営視点は養われていくと思いますよ。

増渕:
最近は副業のマッチングサイトなども盛り上がってきていますね。まずは社内での立ち位置を変えてみて、外部での活動にも挑戦してみるのは、変化のための第一歩になりそうです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。


こちらこそありがとうございました。
私の経験が、少しでも人事の方のお役に立てれば幸いです。

<翠さんのインタビュー記事 前編はこちら

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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