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採用コラム

【期間限定】「Afterコロナ時代」の採用マーケット、どうなるの?

増渕知行

※この記事は、2020年3月18日時点での考察となります。さまざまな要因によって大きく想定が変わることがあります。また、内容的に意味のある期間は限定的だと思われます。

■怒涛の「オンライン化ラッシュ」だった、この1カ月。

新型コロナウイルスの感染拡大は、採用マーケットに大きな影響をおよぼしています。ターニングポイントは、2月20日の「リクナビ合説中止宣言」でしょう。この以前にも一部の企業は説明会や選考の延期やオンライン化に踏みきっていましたが、ほとんどの人事が「うちも何かしら対処せねば!」とスイッチが入ったのが、2月20日だったと思います。

それからこの1か月間は、怒涛の「オンライン化ラッシュ」でした。ハルタカやインタビューメーカーなどの「オンライン面接ツール」を導入する企業が急増。新卒採用においてはこれまでグループディスカッションなどでスクリーニングしていたプロセスを録画面接に切り替えたり、「Zoom」のブレイクアウトルーム機能をつかってディスカッションさせたりする企業が増えています。

会社説明会もいわゆる「ウェビナー」に切り替える企業が続出。リアルタイム配信、録画配信ともに一気に増えました。ここでも双方向性を担保したい企業から「Zoom」は高い支持を集め、人事からも「このほうがいいじゃん!」という声が出ています。各社学生の予約獲得も、順調に推移しています。

■「リーマンショックと震災」で起きたイノベーション。

思えば10年ちょっと前の「リーマンショック」のときも、大きなイノベーショントレンドが起きました。「脱ナビ採用」です。2008年の時点では、学生も企業も圧倒的に「リクナビ&マイナビ」という巨大プラットフォームを利用。しかしリーマンショックで採用意欲が一気に冷え込み、予算も減るなか、「ナビをつかわない採用にチャレンジしよう!」という企業が急増したのです。そのトレンドは、2011年の東日本大震災を機にした「SNSの普及」により、加速しました。

今回の「コロナショック」も、採用マーケットに大きなイノベーションをもたらすはずです。今回の「オンライン化ラッシュ」は一時的な対処ではなく、採用マーケット全体の変化につながるものです。

新型コロナウイルスの感染拡大が一日も早く収束し、終息することを、心から願います。そして今のうちから「Afterコロナ時代」の採用マーケットを予測し、重要となるポイントを提示することで、企業人事のみなさんのお役に立ちたいと思い、この記事を書きました。

■今回のイノベーションは、この3ステップで進行する。

今回起きるイノベーションは、大きく以下の3ステップで進行すると思われます。

▼ステップ-1 『対処』・・・守り寄り
▼ステップ-2 『改善』・・・守りと攻めの中間
▼ステップ-3 『創造』・・・攻め寄り

まずは一つ一つ、概略を解説します。

▼ステップ-1 『対処』・・・守り寄り
「守り」とは、リスクヘッジです。今回の採用コミュニケーションのオンライン化ラッシュは、対面接触というリスクをヘッジするための対処である企業がほとんどです。

これはスピードが重要であるため、基本的には既存のコンテンツ(説明会の内容や、面接の設問など)は大きく変えず、オンラインツールで置き換える取り組みになりやすい。このステップでは意思決定や実行の「スピード感」が高い企業が優位です。採用活動を「延期」するのとオンラインで「継続」するのとでは、大きなちがいです。

▼ステップ-2 『改善』・・・守りと攻めの中間
このステップ-2に移行するタイミングは、今年の6月くらいと想定しています。それはコロナ問題がどうなっているかとは関係なく、「現在対処している手(採用コミュニケーションのオンライン化)の結果振り返りができそうなタイミング」が、いったん6月くらいと思われるからです。

ここで、振り返りを踏まえた「改善」を各社進めていくことになるわけです。これは「守りと攻めのどちらにも振れる手」です。その詳細考察は、後述します。

▼ステップ-3 『創造』・・・攻め寄り
各社が「対処」して「改善」が進むなかで、「さらに一歩頭抜けしたい企業」が増えていきます。それがこの「創造」のステップであり、これは完全に「攻め」のアクションです。

「創造」の具体案を今の時点で予測するのは、非常にむずかしい。しかしある程度は考察する必要があるので、後述します。

以上の3ステップで進行すると思われる、採用マーケットのイノベーション。「ステップ-1の『対処』」については各社現在進行形であり、今回の記事においてはこれ以上の言及は割愛します。

ここからは未来でありつつ予測がしやすい「ステップ-2の『改善』」フェーズを中心に、具体的な考察を進めていきます。

■前提となる、企業の採用意欲の見立ては?

まず予測すべきは、「企業の採用意欲がどのように推移するか」です。シナリオとしては、

A/変わらず旺盛な採用意欲
B/少数厳選採用に振れていく
C/採用ストップ・リストラモード

の三択。しかし、「A」はないでしょう。今回のコロナショックがリーマン級だとすれば、そもそも天井レベルだった採用意欲は基本的には下振れ前提ですよね。

では「B」or「C」のどちらになるのか。これは今日時点ではまだ予測が難しいですが、リーマンのとき同様

一度「C/採用ストップ・リストラモード」になり、しばらくすると「B/少数厳選採用に振れていく」へ。

という流れが一番濃いのではないかと思います。

だとすれば、

【中途採用】緊急度が高いポジション以外は先送り傾向に
【新卒採用】進行中の21卒採用は少数厳選採用、22卒以降は目標保留に

となる可能性が高いと思います。

その上で、「いつでもできる中途採用」とはちがい、「時期を逃すと終わってしまう新卒採用」のほうが手を打つ必然性が高い。よって、

「ステップ-2の『改善』」フェーズは、新卒採用において先に進行し、中途採用に波及する。

と想定します。では、今回のオンライン化対処の次にくる「改善」のステップは、どのように展開するのでしょうか?

■想定課題1:採用弱者が逆転現象を起こしにくくなる

整理しやすくするために、ジャンプが提唱する「採用力のスパイラル」を下敷きとします。

スパイラル

「対処」のステップは、「既存のコンテンツ(説明会の内容や、面接の設問など)は大きく変えず、オンラインツールで置き換える」というアクションが基本となることは、前述しました。このアクションをとると、「出会う力」は基本的にみな高くなります。

定量的には「ターゲット人材との一次接触数」ですが、ウェビナーによる接触数もカウントすれば、予約・視聴ハードルの軽減から数値は伸びやすい。実際弊社がご支援しているクライアントも、「これまで以上にターゲットと接点をつくれている」という声が多くなっています。

問題は、「つかむ力」と「口説く力」。そして、同時に進める「選ぶ(合否判定)」というアクションです。

採用意欲の見立ては前述のとおり「少数精鋭採用」としますので、各社がより優秀層に群がる傾向が強くなります。どんなに全体の求人倍率が低くなっても「優秀な学生は選び放題」であることは変わりませんので、「つかむ力・口説く力」が弱ければ採用できない。

これまで採用弱者である企業(=最初から第一志望群ではない企業)がどうやって「志望度の逆転現象」を起こしてきたかといえば、それは「リクルーターや面接官が対面接触で心をつかみ、口説いてきたから」です。その「人的魅力(この人たちと働きたい)」が、オンラインコミュニケーションではどうしても訴求しにくくなる。よって、

当面において、採用コミュニケーションのオンライン化でもっとも得をするのは、「最初から第一志望群に入っている採用強者」となる。

ことが予想され、採用弱者が志望度の逆転現象を起こしにくくなるという課題が強くなると思います。定量的には、「移行率(合格者が次のステップに進む率)」と「承諾率(内定者が承諾する率)」がダウンすることにより、何かしらの「改善」が必要となるわけです。

■想定課題2:ノンバーバル重視のポジションでミスマッチが起きやすくなる

もう一つ顕在化しやすい課題は、「選ぶ(合否判定)」というアクションに出てきます。今回のコロナショックで直接対面でのグループディスカッションや面接を避け、「オンライン面接ツール」などを導入する企業が激増しました。

これは採用活動の進化を一気に加速させます。こと「選ぶ」という活動のほうが、オンライン化のメリットが企業・学生双方に大きいからです。対人コミュニケーションは「言語(バーバル):何を話すか」と「非言語(ノンバーバル):どうやって話すか」にわけられますが、バーバルの評価はオンラインでも全く問題ありません。距離の壁がなくなる、録画面接なら時間の壁もなくなる、より集中してバーバル評価ができる、といったメリットをあわせると、オンラインのほうが圧倒的に向いているアクションです。

一方で、「人の印象の93%はノンバーバルで左右される」という「メラビアンの法則」も有名です。一緒に仕事をする仲間の「印象」もモチベーションやチームワークに影響するとすれば、印象が業績につながりやすい接客業や営業職の募集だとすれば、ノンバーバルの評価も重要なファクターになるでしょう。

もちろんオンライン面接でもノンバーバル評価は可能でしょう。しかし映像で見た人と実際会ってみたら印象がちがうことがあるように、「若干のズレ」は生じてしまうはずです。また録画面接の場合「質問の意図を瞬時に正しく把握する力」は把握できないため、どこかのプロセスで補完することが必要となります。

よって選考を単純にオンラインに置き換えると、

当面において、「入社してみたら選考時の印象とちがう」と感じる学生が増えやすくなる。

ということが予想され、ノンバーバル重視のポジションでミスマッチが起きやすくなるという課題が強くなると思います。定量的には、入社後の「定着率(⇔離職率)」や「活躍率」に影響が出ることで、何かしらの「改善」が必要となるわけです。

ただしこの数値が見えるのは来年以降になるわけで、今年の6月くらいと想定する「ステップ-2『改善』」においては「なんとなくの違和感」程度にとどまるでしょう。この違和感を解決する手として、「内定者フォロー」の重要度がますます高くなります。そもそも進行していた内定出しの早期化とあいまって、さらに重要になるでしょう。

よって、当面(今年の6月から数カ月程度想定)の改善メインテーマは、

優秀層の心をつかみ、口説くための「コミュニケーション再設計」と「コンテンツ新企画」になる。

と想定されます。

■大多数の企業人事にとって重要なテーマとなることは?

優秀層の心をつかみ、口説くための「コミュニケーション再設計」と「コンテンツ新企画」が重要となる。これが企業人事の注力ポイントになっていく。では、その方向性にはどんな選択肢があるのでしょうか?ここでは旧来型の「直接対面型のインターン、説明会、面接等」を「リアル」という言葉に置き換えて、分類してみます。

A/オンラインOnly完結企業
B/オンライン&リアルハイブリッド企業
C/リアル回帰企業

この3分類とした場合、前述のとおり「採用強者」のほうが「A」に寄っていくでしょう。一方で、「やっぱりリアルじゃないと志望度高められないし、見極めにくいよね」という企業は、Afterコロナでは「C」に寄っていくと思われます。

とはいえ一番増えるのは、「B」のオンライン&リアルハイブリッド企業でしょう。「いいとこどりしたい」という心理ですよね。よって多くの企業において重要なテーマとなるのは、

1.オンラインとリアルそれぞれの特性を意識し、どこで何を訴求・評定するか?
2.オンラインだからこその企画を反映したコンテンツを開発できるか?

という2点になってくるのです。これは端的にいえば、ここ数年加速していた「採用活動のマーケティング化」が一気に加速するイメージです。「デジタルマーケティングの融合」が当たり前となった販促活動同様に、採用活動においても「特性を活かし、ターゲット個人の心理に応じたコンテンツを提供し、志望度を高めていくための企画・設計力」がさらに問われることになります。

「オンラインだからこその企画」とは、たとえば全国の拠点をライブでつないで各地の先輩社員とコミュニケーションできるプログラムを折り込んだり、事業所見学をライブカメラで実現したりといったイメージです。

こういったコロナ問題への「対処後に見えてきた課題」に対する「改善」の動きが、Afterコロナの採用マーケットにおいて重要となります。アクションの手順としては、

▼自社ならではの魅力要素のたな卸し
▼ターゲット心理の想定
▼採用プロセスの最適化
▼訴求・評定ポイントの再設計
▼設計を踏まえたコンテンツの企画

となります。このあたりは本稿とは別に、追って記事を書こうと思っています。

■「創造」のキーワードは、どんなものが想定できるのか?

では最後に、イノベーションのステップ-3である『創造』のフェーズについてです。Afterコロナの採用マーケットにおいて、斬新な取り組みにチャレンジする企業が増えてくるでしょう。思えばリーマン後の脱ナビ採用トレンド下においても、「Twitter限定採用」にチャレンジする企業が出たり、「スカウト型採用」の一般化が進んだりしました。では今回のコロナショックにともなうイノベーションは、どんなチャレンジが想定されるのでしょうか?今日この時点で思い浮かぶキーワードは、「テクノロジー」と「インターンシップ」です。

まず「テクノロジー」については、

・訴求テクノロジーとしてのVR活用
・選考テクノロジーとしてのアセスメントツール進化

がイメージできます。前者はVRを活用することで、「リアル感の補完」を実現する動き。VRが一般化すれば、採用に活用する企業が出てきますよね。

後者は適性検査や能力検査が進化することで、「その結果だけで合否を決める」という取り組みです。そもそも「面接による評価の限界」は、ここ数年言われつづけてきました。とはいえ会って話してみないとわからないことは多いし、会って話せば合否をつけたくなる。しかし本当に選考の精度を追求するなら、アセスメントツールに依存したほうがよいのかもしれない。ツールの進化がさらに進めば、チャレンジする企業は出てくると思います。

次に「インターンシップ」です。これは現在の「インターンシップの採用活用」ではなく、「インターンシップ限定採用」です。

説明会も、面接もしない。ただ単純に長期インターンシップを通じて、入社オファーをするかを決める。

という取り組みです。すでに取り組んでいるベンチャーも多々あるので「創造」というほどのものではないかもしれませんが、明確に方針として打ち出して、採用ブランディングに活用する企業が出てくると思います。

思えばリクルート社は、古くからこの手法を使ってきました。「高い時給のアルバイトがあって応募したら、リクルートの営業バイト。やってるうちに先輩から誘われて、気づいたら入社してた」という方、すごく多いですよね。これって実は、「インターンシップ限定採用」と同じです。この動きが本当に一般化したら、いよいよアメリカ型の採用マーケットに近づいていくのでしょうね。

この「テクノロジー」「インターンシップ」というキーワード以外にも、さまざまなチャレンジテーマがありえますよね。このあたりはぜひ、採用にかかわる方々とディスカッションしてみたいと思っています。

いやぁ、気づけばだいぶ長文となりました。最後まで読んでいただけた方、ありがとうございます。本当にここで書いたような「Afterコロナ」が早く訪れてほしい。イノベーションとは破壊と創造です。コロナショックによって、破壊されるものがたくさんあるでしょう。「これまでの採用勝ちパターン」もその一つです。

そして、創造されるものも増える。少なくとも「改善」は必須となり、企業人事にとっては知恵の出しどころ、腕の見せどころとなります。本稿では「採用強者」「採用弱者」という言い方をしましたが、これまでリクルーターや面接官の「量」で勝負してきた大企業は、苦しくなっていくかもしれません。歴史の転換期には、力関係が大きく変わりうる。最終的には、最先端でなくとも本質志向をもち、改善を繰り返すことができる企業が勝ち組になるのだと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大が一日も早く収束し、終息することを、心から願います。

増渕知行
代表取締役 クライアントパートナー

理想を追求し続けたら、起業に行きつきました。ジャンプは自分の人生そのものです。ジャンプはクライアントにとって、頼れる同志であり続けたい。社員にとって、燃える場所であり続けたい。約束は守る男です。週末は野球がライフワーク。


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