答えのない世界に向き合え~これからの人材育成~
「次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム」で講演された、慶応大学先端生命科学研究所の所長・冨田勝先生の記事を読みました。企業の人材育成にも大いに関連する話かと思いますのでご紹介します。
◎好きが高じて突き進んだ道
慶應の一貫教育で育ったという冨田先生。もし他の学校に行っていたら異端視されかねなかった自分を受け入れ、支えてくれたその校風が、現在の自分の礎になっているとおっしゃいます。先生はいわゆる「ゲーム少年」だったのだそうですが、研究者になったきっかけはそのゲーム好きが高じてのことでした。中学一年生のときにポーカーについて調べます。ツーペアよりスリーカードのほうが強い手であることが納得できず、「1人ポーカー」を5000回やり、その勝敗の結果ノートに記録し、確かにスリーカードの方が出にくいという結論を得ます。先生の指導を仰ぎながらその結論にたどり着くわけですが、最初はまず何の教科の先生に相談するべきかに悩み、ゲームの研究なんて否定されるのではないかと悩みます。しかし、意を決して相談した数学の先生は「それは面白い」と表やグラフのまとめ方などの助言をしてくれました。自分でやり遂げるのが原則という校風も手伝い、完成させた「ポーカーの確率」という論文は学内の賞を取ります。やる気になった冨田少年はその後、中学二年生で「五目並べ必勝法」、三年生で「多角形の駒を組み合わせて正方形を埋めるゲーム」でついには最優秀賞を取ります。最後までやり遂げ、きちんと形にして発表すれば、ちゃんと評価してもらえる。その嬉しい体験から研究の魅力に気づき、科学者人生の扉が開くこととなったのです。その後、大学生のときはというと、はまったインベーダーゲームから自分でコンピュータゲームを作るようになり、最先端で人工知能の研究に携わることにつながります。こうして新たな出会いと発見を繰り返し、ついにはメタボローム解析、すなわち少量の唾液や血液からがんなどの病気を早期発見できる技術の開発にたどりつきます。「流行や権威に迎合して点数を稼ぐ優等生ではなく、批判や失敗を恐れず信念を持って実行する人間となれ」、これは冨田先生の言葉ですが、そんな先生の研究室からは、人工合成クモ糸の開発と量産に成功したり、NASAで宇宙生物学をリードする教え子が輩出されています。
◎答えのある世界から脱却せよ
かつてのように、過去と同じこと、周りと同じことをしていても、成果を出せる時代ではなくなってしまいました。今は、新しく高い価値を創造し続けていくことで未来を開く時代です。そのような人材になるためには、人生のどこかで、「答えのない世界に立ち向かうスタンス」を獲得しなくてはなりません。冨田先生の場合は、やりたいことに没頭することで、やり遂げることの充実感や、成果を出すことの喜びを味わいながら獲得されたと思われます。しかし多くの人々は、答えのある世界、すなわち小さい頃からみんな同じ教科を勉強し、その狭い共通指標で能力の優劣が決められてしまう世界に身を置き、そこに膨大な時間を費やさざるを得ません。よって、「答えのない世界に立ち向かうスタンス」の必要性を、社会に出て初めて認識することとなります。それでもたまたま対応できた人はラッキーですが、急に言われても対応できない人は挫折を味わうことになってしまいます。では、答えのある世界を生きてきた若者を、答えのない世界に向き合える人材に育て上げるには?この問題がビジネス社会においても当面大きな課題の一つになるはずです。実際まだその解決策も答えのない世界の中にあるわけですが、これをいち早く確立した企業の未来はきわめて明るいと言えます。
辻隆斗
取締役 クライアントパートナー
前職は人事を担当。会社全体の仕組みから社員一人ひとりのケアまで、幅広い視点から会社や組織の活性化に貢献します。既存の概念にとらわれることなく、常に柔軟に考えることを心がけています。趣味は料理。食べるのも作るのも大好き!
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