八王子の焼鳥屋さんの後継ぎ採用。
10年くらい前、リーマンショック前夜。僕がようやくコピーライターとして求人広告をつくり始めた頃の話です。その頃の僕といえば、「コピーライター」という職業をカン違いして、変なレトリック、回りくどい言い回し、どこかで見たことがあるような言葉を書いては、社内から社外からボツを食らう毎日。一言でいえば、まあ「イタイ奴」でした。(今もそんなに変わらないかもしれませんが)
そんなくすぶっていた頃に、あるクライアントに出会いました。八王子の個人経営の焼鳥屋「やきとり小太郎」さんです。当時は八王子に小さな2店舗を経営。オフィスもなければ、会議室もない。アポイントは店舗の2階にあった4〜5畳程度の休憩スペース(だったような)。大将の悩みは「後継ぎ採用」でした。
「求人誌に出してもぜんぜん採れねえし、採れたところですぐやめちまう。やっぱ俺の店と味をちゃん分かって、惚れ込んでくれたヤツじゃないとダメだって気づいたんだよ。だからお客さんから採用しようと思ってさ。今はサラリーマンやってるけど、面白い商売があったらやってみたい。いつか独立したい。そういうヤツ、1人くらいいるんじゃねえかな。だから、店内に貼る求人ポスターを作りたいんだよ」(口調は薄い記憶とイメージです)
なるほど、では大将の後継ぎ採用にかける想いを聞かせてください。ということで取材開始。そしたら出る出るわ、3時間以上は語ってくれたでしょうか。焼鳥屋を始めたきっかけ、商売哲学、味のこだわり、自慢のメニュー、愛車のオート三輪のこと、あふれんばかりの想い。取材っておもしれーな。初めて思えたかもしれません。大将の情熱をなんとか伝えたい。変な装飾を加えず、まっすぐ書かないとダメだな。取材メモに線を引きまくって、言っていた素材をできるだけそのままに。でも強く印象的になるよう、手を加えて。そんなことを考えながら、作ったのがこちらでした。
店舗が思ったより狭く、大きなポスターを貼るスペースがなかったため、店舗の空きスペースに貼れる小さなステッカーを数枚作りました。
大将は大喜び。「まさに俺の想いだよ!最高だよ〜。もう採用できなくってもいいくらいだよ〜」ああ、よかった。でも、採用はがんばってください。その後、担当チームみんなでお店に食べに行ったら、店中ステッカーだらけ。壁の隙間、カウンター下、冷蔵庫、テーブル、メニューの裏。さすがにやりすぎだろ。でも、めっちゃうれしかったなあ。
この仕事をきっかけに僕の仕事スタンスが一変した、という美しい成長ストーリーは残念ながらありませんでしたが、僕の制作マンとしての原体験の一つとして、この仕事は残っている気がします。想いをストレートに伝える。一見、取るに足りないような小さなエピソードもすくい取り、伝わる表現に変えていく。
今でもときどき近くで仕事があったときは、こっそり小太郎さんに寄っています(大将、覚えてないかもしれないし、だとしたら恥ずかしいので、最近は挨拶してません。すみません)。2年くらい前に行ったら、店舗が大きくなっていて、立川にも新店をオープンしてました。すげー、成長してる。後継ぎくん(さん?)が、がんばっているんかな。
やきとり小太郎、旨いです。焼鳥はもちろん、煮込みも旨い。みそ、カレー、塩の3種類から選べます。僕は全種類頼んで、食べくらべします。お近くに寄った際はぜひ!ホッピーもレモンハイも進みます。
やきとり小太郎
http://yakitori-kotaro.com/index.html
*今でもあの時のコピーをちょこちょこ使ってくれてるのは、うれしい限りです。
内田直樹
コピーライター/ディレクター
じっくりとヒアリングを繰り返し、課題発見、企画提案から取り組む「対話型モノづくり」を信条としています。クリエイターである前に、信頼できる相談相手でありたい。最近始めた野球では、長打が打てるようになりたいとバッティングセンターに通う日々です。
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