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採用コラム

目標管理、そのままで大丈夫?

林田宏基

ここ最近、銀行による不正融資、保険の不正販売、製品品質の不正審査、個人情報の不正利用など、倫理観の欠如としか言いようのない不祥事が引きも切らずにメディアを賑わせています。
もちろん、不正の当事者である社員の行為を肯定することはできませんが、一方でたとえば、目標管理をはじめとした組織マネジメントの手法にも問題があるとしたら…。
そこで、私たちの身の回りに当たり前のように存在している目標管理について、少し考えてみたいと思います。

目標管理の意義

目標管理はMBO(Management By Objectives)とも言われ、経営思想家ピーター・ドラッカー氏が提唱したとされる組織のマネジメント手法の1つです。
MBOは業績や業務改善などの組織貢献や能力開発に関する個人目標を、経営目標や部門目標と連動させることによって、全社業績向上を目指すものとして位置付けられています。
この手法は、各個人が自らの業務目標を設定し、その進捗や実行の管理を本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて、結果として大きな全体成果が得られる、という人間観と組織観に基づいています。
このように本来、MBOとは社員の評価をおこなうためのものではありませんでしたが、その達成度で評価をおこなう人事考課制度として導入・運用されるケースが多くなっているのが実態です。人事考課にMBOを採用している国内企業は約7割にものぼる、という労務行政研究所の調査結果もあります。
しかし、MBOと人事考課システムの混同は決して世界標準ではありません。

目標管理の弊害

欧米では、組織マネジメントの目的を見誤ったMBOの導入や、全体視点を見失った不適切な目標の設定は、手段を選ばないKPI管理至上主義を誘発し、業務品質の低下や不正の増加を引き起こすとして、MBOに反対する意見も多く見られます。
しかしこの日本においては、バブル崩壊に始まる度重なる不況を背景としたコスト削減圧力もあり、従来型の年功主義や能力主義から成果主義への急激な移行に伴って、社員の自主性を無視したノルマ型マネジメントの運用システムとして都合よく導入され、今日に至っているようです。
何としても業績を上げなければならぬ、働き方改革でも結果を出さなければならぬ、という強迫観念から、売上と生産性の極大化こそ絶対的な数値目標であると信奉する行き過ぎた目標管理は、結果的に社員の自主性を損なうばかりでなく、倫理観が欠如した思考と行動を助長する元凶となってしまったのではないか、というのが仮説です。

目標管理の新潮流

そうした中、MBOに代わる目標管理システムとして、OKR(Objectives and Key Results)という手法が注目を集めています。GAFAのGoogleやFacebookが導入していることでも有名です。
OKRでは、まず会社としての定性的で極力シンプルな全社目標(Objective)、言わばビジョンを提示します。そして、その全社目標に対して貢献度が大きい成果指標(Key Result)を設定します。そしてこのOKRをチーム単位、個人単位にブレイクダウンしていく構造ですが、チーム目標と個人目標は全社目標に密接にリンクするように設定します。成果指標はMBO同様、定量的かつストレッチなものであることが推奨されているものの、運用上は60~70%程度の達成度で成功とみなされる、という点で、日本型MBOが持つノルマ的な恐怖感はありません。実際、OKRは個人成績とは結び付けない、という特徴もあります。
OKRは、すべての社員が同じビジョンをゴールとして目指す構造になるため、業績目標が起点になることが多いMBOとは思想が大きく異なるのです。

OKR
もうお気づきかと思いますが、組織マネジメントの目的を見失った目標管理は、一歩間違えると恐怖政治と化し、疑心暗鬼や不正の温床となり、到底社員の内発的なエンゲージメントも本質的なパフォーマンスも高めることはできません。
そもそも、社員はAIでもロボットでもなく感情を持った人間です。数値だけで管理できる対象ではないはずです。
会社が目指す姿への共感を醸成しながら、社員の自主性や感情を尊重し、社員が意欲をもって誠実な仕事に夢中になれる集団をつくる。そして結果として顧客と社会に大きく貢献する。そんな世界観を目指すことが出来たら素敵だなあ、と思うのです。
そして忘れてはならないのが、どのような仕組みであっても、個との対話を含めた運用が命である、ということです。

経営ジャンプ2
自社の目標管理は果たして、会社が目指す姿と一貫性がある最適な組織マネジメント手法になっているのか?そして血が通った運用によって仕組みに命は吹き込まれているのか?
社内に綿々と息づく「これまでの当たり前」を一度疑ってみることも必要なのかもしれません。

林田宏基
クライアントパートナー

「何が目的か、何が手段か」に拘ります。顧客以上に顧客好き、はもう治りません。論理派気取りで情緒的、寂しがりやの一人旅、早起き苦手な山登り、真面目な顔してヘヴィメタル、強くもないのにお酒好き。典型的な天邪鬼ですが、実は褒められて伸びるタイプです笑


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